ジム・フシーリ 『ペット・サウンズ』(訳・村上春樹)


ペット・サウンズ (新潮クレスト・ブックス)

ペット・サウンズ (新潮クレスト・ブックス)


神がこの世に産み落とした衝撃作「PET SOUNDS」(The Beach Boys)の制作についてを、ブライアン・ウィルソンの波乱の生涯を、見事にまとめてくれた素晴らしい一冊。これはヨイ。


ブライアンの生い立ち、人間性、音楽的志向性、The Beatlesへの対抗心、セールス面の不安、、、この名盤が作り上げられたいくつもの所以とサウンドの秘密(使用されている珍しい楽器や特異なコード進行・歌詞の分析等が、一曲ずつ事細かに!)が、客観的(ココ大事!)に、なおかつバンドへのたっぷりの敬意が込められて解りやすく論じられている。この手の本によくありがちな意味不明な精神論や、ネジ曲がった主観がきっぱり排除されているのがヨイ。ありのままの「PET SOUNDS」の姿が、ありのままに活字に起こされている。


ブライアンはいつも孤独で不安を抱えていたからこそ、人の心を柔らかく掴まえて離さない名盤を録音することができた。リリースから四十年以上経ったいまでもサウンドから放たれるささやかな光は色あせることを知らない。聴けば聴くほどに新しい発見や意外な仕掛けが組み込まれていることがわかる。これ以上のアルバムはもうこの世には現れることはないのだ。巻末の村上春樹によるあとがきもこの本の良さをさらに引き立てる役割をしっかりと果たしている。春樹がいなかったら、たぶん私はこのアルバムを聴いていなかっただろう。そういう意味でも彼の小説の功績はとても大きいのだ。


PET SOUNDS

PET SOUNDS