岡崎祥久 『ctの深い川の町』


群像 2008年 06月号 [雑誌]

群像 2008年 06月号 [雑誌]


昨夏の『美女の林間の空地(文学界・2007年8月号)』以来の岡崎祥久の新作。もう消えてしまうのかと思ってしまうほど非常に寡作な作家の小説が、ひょっこりと『群像』に掲載されていたのでビックリした。


彼のデビュー当時のような作風の中編小説だ。故郷に帰ってタクシーの運転手になった主人公の男(もちろん独身で貧乏だ)は卑屈で偏屈でヒネくれ者でイジけていてきわめて自虐的だが、独自の理論とゆるーい思考をもってこの生きにくい社会と折り合いをつけていく。シンプルで控えめな文体は読みやすいだけでなく、昔からのファンが期待する厭世的で非社会的で、不条理きわまりないこの世界にこっそりツバを吐き捨てるような岡崎ワールドを醸成させることに成功している。パンクでプロレタリアでアナーキー
オカシな発明家、数学者、女性運転手(元ネタはノルウェイの森の緑か?)、中学の同級生であるバツイチ女性、、、登場するキャラクターはみないい感じで個性を発揮しているし、彼らと主人公とのやりとりはどれも面白いぞ!
こういう作風でたくさん書いてくれたらもう言うことが無いんだけどな…。もっとボリュームのあるものが読みたい。



秒速10センチの越冬

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