五反田団第35回公演 『偉大なる生活の冒険』(こまばアゴラ劇場)
作・演出:前田司郎
先日めでたく岸田國士戯曲賞(受賞作:『生きてる者はいないのか』)を受賞した前田司郎が主宰をつとめる五反田団。前作と同様アゴラ劇場で35回目の公演だ。観終わってから知ったことなのだが、今作は芥川賞の候補作にもなった小説『グレート生活アドベンチャー』の舞台化だとのこと(小説は未読)。石橋亜希子&内田慈という素晴らしい演技をみせてくれる女優を従えているので素晴らしい作品に仕上がってるに違いない、、、ハズ!?
定職にもつかずバイトもせず日々ゴロゴロして暮らすニート的三十路前の男(前田)と、その同居する女(内田)。そしてその隣人カップル(安倍&中川)とのお話。セットは散らかりまくった部屋。多少の笑いを交えての日常の何気ない会話がひたすらひたすら続く。なぜか未来に楽観的な男、彼のダメっぷりに辟易する女だが、彼女は実はバイト先の男と不倫の関係にあったりする。隣人はデリカシーがなくてちょっぴり図々しい。男には妹がいたが4年前に亡くなった。この世に普通にありえそうな、普通の状況設定だ。
日常的な何気ない会話、それはけっこう情けなかったりバカっぽかったりもするんだけど、そのなかに、将来への不安、希望、友情、愛、ユーモア、アイロニー、悲哀、苛立ちetc…、ほんのうっすらではあるがすごく色々な要素が含まれているようにみえる作品であった。かすかに何かを匂わせるような演出が巧みで、前田の安定した演出家としての力が素晴らしく出ている。彼自身の演技は上手くはないが、役柄のどうしようもなくだらしない特徴がしっかり滲み出ていたので最後までガッカリさせられることはなかった。どうでもいいほどに瑣末なコトに執着してニクーイ笑いを取る場面がふんだんに取り入れられていてそのタイミングだとかバランスもウマい。
期待の石橋&内田の両名も流石!持っている実力を十分に発揮してしっかり役にハマっていたと思う。男の妹役の石橋はスマートでナチュラルでちょっと皮肉っぽい、内田はちょっとヒステリックだけどしっかり生きようともがく乙女、よかったぞー。それに加えて中川幸子がかなり可愛くなっててドキッとした。初めて観たけど青年団の安倍くんも声に存在感があっていい役者であった。
ストーリーで魅せるんじゃなくて、登場人物の呼吸感だとか、演出の妙だとか、役者の個性だとか、いかにも小劇場いかにもアゴラな作風で楽しませてくれる、観る者を感心させてくれる、奇怪なトリックやギミックに頼らずにここまでできちゃうんだからこれは100点満点の作品でしょう!?
この日特別のアフタートークでは作品の出来上がっていった過程や前田が表現しようとした意図などを気さくに話しちゃってくれたのでこういうオマケはありがたかったし、このおかげでよりよく理解できたと思う。
帰り際に『偉大なる生活の冒険』&『いやむしろ忘れて草』、2作の戯曲を買ってしまったぞ。
もう1回観に行こうかな?
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