本谷有希子 『乱暴と待機』


乱暴と待機 (ダ・ヴィンチブックス)

乱暴と待機 (ダ・ヴィンチブックス)


川上に負けるな!本谷有希子ちゃんの最新作であります♪


2005年の4月に劇団、本谷有希子第7回公演として舞台で披露された(馬渕英里何がスウェットを着たヤツだ)戯曲を小説化したものである。ダヴィンチ誌に連載されていたのが単行本化された。全200ページ強で描写は彼女にしてみればあっさり目(ラノベを意識したらしい)で読みやすい。


インタビュー等でみられる「今はいろんな書き方を試している」という発言のとおり、技法の実験の妙がまず目に付く。場面ごとに一人称の語り手が変わったりだとか、たまに三人称で書かれていたりだとか、世界を多面的に眺めるような主体の変幻自在さはこの作品で初めて取り入れられた方法だ。一人の人物の視点では見えにくかったり分かり難かったりしたコトが、他者の目から見るとクリアに見えたりあっさり納得できたりする。ちなみこの書き方は主人公の男の「世界が俺の目に見えていない・視界に入っていないときはサボって真っ白に消えている。」という旨の発言とリンクしている。読み手の視野が広がるような、隅々まで見渡せたように感じさせる面白いやり方だ。

登場人物は4名。復讐を予定する男と復讐を待つ女が同居し、男の同僚とその恋人を巻き込んでの本谷らしい(包丁やらセックスやらの)奇想天外な展開が起こる。自分は他者からどう捉えられるか、アイデンティティーを支えるモノが失われようとする瞬間どういった行動をとるか、テーマはもちろん「自意識」だ。そこにネジくれたピュアなラブロマンスが加わって独特の女性作家らしい趣のある小説として完成している。描写も比喩もかなり上手くなったと思うし適度に張られた伏線も読み手が納得する形で次々と腑に落ちる。ここにきてスタイルが固まってきたというか書くべき道が太く長く彼女の目にはっきり見えてきたのではないかと思う。


今の本谷有希子は演劇よりも小説のほうがずっと面白い。