町田康『真実真正日記』

真実真正日記

「犬の横にチャーハンが置いてあるのよ。そのすきまのこと」

「本」2004年7月号〜2005年12月号に連載されていた日記形式の長編小説。真っ黒な装丁がいかにも町田康だ。今年はエッセイや短編集の出版ばかりだったため、長編は久しぶりとなる。『告白』以来か、意外にも1年半以上ぶりだ。
２足の草鞋を履く男、奇作「悦楽のムラート」を執筆中の小説家でかつバンド「犬とチャーハンのすきま」で活躍するロッカーでもある主人公の、ダメ人間っぷりを独特の筆致で滑稽に描くお得意パターンが今回も炸裂！！
日記という形態で書かれているのもあって各章ごとに収まりがよく簡潔で読みやすい。わけのわからない方向へどんどん進む執筆作業と人気がありながらも様々な問題を抱えたバンド内の様相を中心とした笑いどころ満載なダラダラした生活っぷりは（自分に通じるものがあるためか!?）読んでいてなぜか爽快に感じられる。うどんだの串かつだの町田らしい単語が数多散りばめられている分、『くっすん大黒』等の初期作品のように雰囲気は満点。そのうえ榎本半麺という堀江貴文をパロったようなうさんくさいキャラが登場したりするなどお得意の鋭い社会風刺には相変わらずドキッとさせられる。物語自体の主人公と執筆中の小説「悦楽のムラート」の主人公の人生が徐々にリンクしていくもっていき方も面白くて最後のやっぱりな結末にはわかっていてもニヤリだ。
とにかく読みやすくきゅっと町田康という小説家の魅力が凝縮されているので、お気楽に楽しむにはうってつけの作品だ。入門編としてまだ彼を読んだことのない人に勧めやすいね。でもずっと読んできたマニアはまたこれかって思うくらいなマンネリ感は拭えないかもしれない。

前衛的個性派ボーカリストの辺多子さんがバンド名を決める場面は、すごいぞ！！