岡崎祥久『独学魔法ノート』


独学魔法ノート

独学魔法ノート


昨年出版された『バンビーノ』以来のいわゆる「岡崎祥久・児童文学シリーズ」。主人公はちょっと気難しげな中学生になったばかりのヒロマサという男の子だ。児童文学というくらいなので文体は優しく柔らかで取っ付き易い。それで内容も子供向けなのかというとむしろその逆である。ちっぴりこむつかしい。魔法を使う術を習得するまで、13歳男子の身の丈に合った不思議な試行錯誤の過程と、歴史的で物理的で立体的なその独自の論理に、読み手は何度も頭の中身が捩れそうになる感覚をもよおすであろう。魔法・妖術の存在は太古の時代から人間を悩ませ脅えさせる反面で、科学技術・工業・学問・思想等あらゆる分野において大いなる確実な進歩を遂げることの手助けをしてくれていたのだ。
登場人物の設定やネーミングセンスも相変わらずユニークでかつお見事としか言いようがない。博正博(ヒロマサの本名)、姉のグミ、無邪気な妹・まれん子、岡崎の作品には欠かせない謎の謎の男・玉坂玉男、ヴァリエーションは豊富でそれぞれの個性は強烈で自然と愛着が沸いてしまう。


13歳の夢見る気持ちとそんな頃の生きていくほろ苦さと、周囲の優しさと世界の成り立ちの不思議さと、この一冊でいっぺんに味わえてしまうなんて、文学というのは贅沢なものだ。さて、私もコーヒーカップを斜めに立てる練習を始めよう。