"No Title"(裏窓)


LIVE:Suicidal 10cc (Hair Stylistics + Jim O'Rourke)


新宿のゴールデン街にあるすんご〜〜く狭いバーで中原昌也ヘア・スタイリスティックス)とジム・オルークの共演を見にいってきた。その名も‘Suicidal 10cc’。 新宿ゴールデン街、私には夜は行ったことのない未知の世界。裏破れた小さな飲み屋が立ち並ぶ。歩いてて後ろから刺されたりしたらとか、野蛮なオジサンにからまれたらとか、いろんな怖いことを考えた。
「裏窓」にたどり着いてみるとやはり怪しさ満点。しかし、店から出てきて「10分くらい押します」と言ったマスターらしき男性は、目の奥になにか深いものを感じさせる良識のありそうな方だった。入場してビックリ。内装は何から何まで真っ黒だ。壁はベニヤ貼りで、床はコンクリート。ライブをやるにはマジ狭すぎ…。左手にはカウンターがあって、真正面にはもう中原とジムが座っていて、機材を操作してチリチリとしたノイズを発している。客はわずかに8人。みんなインテリっぽい。全員一人で来ていたようだ。その8人がわずか2畳くらいしかないスペースにキチキチになって突っ立ってライブを見るという、想像しなかったシチュエーションにやや焦る…。とりあえずビールを注文。キリンラガー。一番搾りじゃなくてラガーなところがシブい。
さあライブだ。爆音とまではいかないけれど、近所迷惑間違いなしな大きな音であのノイズを浴びた。キチキチだけれどみんなジックリ聴く体勢を作ってくれていたので、そんなよろしくない状況もすぐに気にならなくなった。時間にして50分ほどのパフォーマンス。マスター同様、中原にしても、ジムにしても、目の奥になにか深いものを感じさせる超然とした佇まいだ。中原はかなり髪が伸びていてゆるいパーマがかかっていた。ジムは綺麗なジャケットを羽織っていて紳士的な感じがした。

ひたすら続くノイズ。苛立ち、怒り、絶望、恐怖、、、音は様々な負の感情を表現し、理由は解らないが大きな大きな説得力を保持し、同時になにか物語のようなものを含有していた。何を考えながら聴くべきなのか、何も考えずに聴くべきなのか…。たまにどうでもいいことが頭をよぎったり、コードやプラグでゴチャゴチャになった機材がオペレイトされるのをじっと見たり、たまに乾いてきた喉をビールで潤したり、そんなことをしながらこの日米のビッグネームの演奏をただ聴いていた。緊張感はあるが押し付けがましくはない。むしろリラックスして没頭できた。瞬間ごとに移り変わり、表情を変えてゆく雑音はこんなどうしようもない時代にこそ聴くべきものであるように感じられた。
終わった後の不思議な満足感は格別だ。店を出て、ゴールデン街を歩く。怖くなくなってきた。もちろん刺されなかった。幸か不幸か、私はまだ生きていかなければならないようだ。