佐々木敦×前田司郎トークセッション 『ながくトーク(さよなら地獄)』(ジュンク堂書店新宿店)


批評家・佐々木敦の『(ブレインズ叢書1) 「批評」とは何か? 批評家養成ギブス』と、五反田団を率いる劇作家にして小説家である前田司郎の『大木家のたのしい旅行 新婚地獄篇』、両新刊の刊行を記念してのトークセッションが新宿のジュンク堂書店内のカフェスペースで開催された。定員はわずか40名ということで当然会場は満員御礼。戯曲では昨年岸田賞を受賞し、小説では芥川賞候補にもなった“二兎追う者”たる前田司郎の創作の秘密についてを、佐々木敦から問うような形式でトークは長々と進められた。


この場所で見る前田司郎は、舞台で見るよりもスマートに見えて、顔立ちが整っていてイケメンというよりは「高感度の高い青年」というような清潔感のある雰囲気だった。彼なりの戯曲や小説の書き方(動機的なもの、作業的なことetc.)から始まって、話題が一気にいろんな方向に展開され、拡大され、脱線したり、深く掘り下げられたりして、あまたの面白い論理や思考が次々と暴露され、気づいてみると2時間超、ボリュームたっぷりの濃すぎ〜るトークだった。彼が平生どんなことを考えながら演劇や小説の創作に励んでいるのかを(ここにひとつひとつ書きあげてもきりがないのでそれは省略する)、さすがイマドキのアーティストといわんばかりの感覚の鋭さや独自の視点でもって本音で語ってくれた。一言一言が本当に面白くて斬新で新鮮で感激の連続だった。本人の口から生で聞くと衝撃が強いなぁ。

なかでも私の印象に残った話題は「死生観」についての話と「神様」についての話だった。戯曲にしても小説にしても前田の作品には怠惰で無為な生活を送る人間がよく登場するが、そういった者を通して語られる彼なりの持論や主張のメカニズムを解りやすい言葉で一歩踏み込んで説明してくれた。ホスト役の佐々木がぶつける質問も上手かったし、両者の相性も良く、会話は見事に噛み合い、トークはどんどんと進んだ。参加者からの質問にも丁寧に返答し、希望者にはサインもしてくれた。二人とも「働いたことがない」、と言っていたけれども、ドコに出しても恥ずかしくない立派な立派な人間だよな。芥川賞落選時のエピソードには爆笑。


誰かが手を、握っているような気がしてならない

誰かが手を、握っているような気がしてならない