吉田修一 『7月24日通り』


7月24日通り

7月24日通り


またまた吉田修一の長編に挑戦。『小説新潮(2004年10月〜11月号)』に連載されていたドラマティックで繊細な恋愛小説だ。自らが住む小さな地方都市をポルトガルリスボンになぞらえて生活する実家住まいの独身OL・本田小百合が、巡りあう様々な出来事に直面して感じたこと、学んだことから前向きに生きていこうとするある意味文学らしくない物語だ。文体や言い回しはきわめてシンプルで、吉田の小説のなかでも最も軽い。ありえないほど都合のいいストーリー展開や人物設定は、まるで月曜夜9時からのトレンディードラマのようである。家族、会社の上司、高校の同級生・先輩、妊娠した弟の恋人、書店で偶然出遭った男性、、、狭いコミュニティでずっと育ってきたからこそ繋がりの深い人々の交流は温かく人情深い、と同時になぜかイマっぽくてスマートだ。
読み口はライトでも、内容の充実ぶりはさすが吉田修一。街の風景描写はロマンティックなことこの上ないし、現実離れした男女の出会い・再会と別れの心理描写もフィクションならではの緊張やスリルを孕んでいる。予想外の結末には心のモヤモヤがすべて吹っ切れるほど清清しい。
長崎を舞台とした泥臭い小説もあれば、こういうコンテンポラリーでオシャレな小説も奥行きたっぷりに書ける、作家としての力量の深さはこの作品でもしっかり発揮されている。