吉田修一 『長崎乱楽坂』


長崎乱楽坂 (新潮文庫)

長崎乱楽坂 (新潮文庫)


わりと速めのペースで安定した作品を書き続けている吉田修一の、出身地である長崎を舞台にした小説。2002〜2003年にかけて『新潮』に連載されていたものである。


震えたぜ。これはとてつもなく読み応えがあった…。『パーク・ライフ』よりも『パレード』よりも面白い。映画化された『water』に勝るとも劣らない最高傑作ではないかーっ!!


昭和期のヤクザの家系に生まれた兄弟の成長を、潔いほどに日本文学の伝統に則り、緻密な文章で独特の世界観を静謐に描いた本当に素晴らしい作品である。6つの短編が連なって1つの長編を成しているのだが、最初から最後まで血と汗と男と女の、生々しい描写の連続で、気持ちの良い緊張感を生み出している。これはすごい…。人間(男たち)の生臭さ・たくましさにはなんとなく中上健次の小説を彷彿させるものがあったし、状況設定の巧みさや文体の緊密度からは宮本輝の作品なんかを連想した。
それにしても人を描くのが上手すぎる。老若男女様々なキャラクターが登場するが、どれもみな(多かれ少なかれ)普通に闇と欲を抱えて特別な(しかし彼らにとってはそれが日常だ)世界を生きている。切実に生きる彼らの、それぞれの交流はなんとも言えないギリギリ感が丁寧に表現されていて、小説を読むことの醍醐味を十二分に堪能させてくれる。
読みながら本から匂ってくる香りがもうたまらない。