吉田修一 『東京湾景』


東京湾景

東京湾景


東京を舞台にした恋愛小説だ。いまはりんかい線で結ばれている品川とお台場、東京湾を挟んで地道に働く若い男女の静謐な物語。ガテン系マッチョ男とイマドキのキャリアOLという組み合わせが吉田修一らしい。この作品はフジテレビでドラマ化(仲間由紀恵主演)されたようだが、どうやら吉田ファンのあいだでは不評なようである。
出会い系携帯サイトで知り合った亮介と「涼子」、逃れようのない日常に埋没されて生きる、どこにでもいる若者だ。そんな両者(と周辺人物)の微妙な恋愛心情の機微を寒々とした東京湾の情景に映して切々と描写している。特別な大事件やら意表を突くギミックなしでいかに文学的に勝負ができるか、この作風を吉田修一はこの小説でも潔いほどに貫いている。今ではあまりに漠然とした地に成り果てた東京の四季に恋愛の展開に沿うような形で進行するストーリーは、ややあっさりしすぎている感はあるが巧みな文章力のおかげもあって魅力的だ。登場人物に揺れ動く女性が多いので女性に受ける作品かもしれない。
パーク・ライフ』や『パレード』ほどではないにしても、これもなかなか良い小説だ。