仲俣暁生『ポスト・ムラカミの日本文学』


文学:ポスト・ムラカミの日本文学   カルチャー・スタディーズ

文学:ポスト・ムラカミの日本文学 カルチャー・スタディーズ


文芸批評家にして大御所はてなダイアラー、いま旬の文学を語らせたら右に出る者はいない(?)「読んでいないのだが、」で名高い仲俣暁生の評論を読んでみた。
村上春樹村上龍高橋源一郎からJ文学を経て堀江や吉田修一まで、タイトルどおりにW村上出現以降の日本文学(POP文学)についてである。彼お得意の世代論を半ば強引に用いて論じられているが、なかなか説得力のある内容で面白い。かつ私のようなアホでも一日で読みきれるくらいに解りやすく書かれている。政治・経済・社会情勢の変化がカルチャーへどういった作用をもたらしたのか、その作用が作家たちをどういった方向に導きそこからどんな作品が生まれたのか、筋道立った論調に好感を持った。


阪神・淡路大震災村上春樹にもたらした影響について、私は『神の子どもたちはみな踊る』はよくできていると思っているので仲俣の意見には全面的には同意できないが、春樹のことが本当に好きなことがよく伝わってくる深い読みは凄い!「春樹は故郷が震災に見舞われたのになんとも思わなかった自分に失望したのだ」という記述はその後の春樹を読むとあながち誤りでもないような気がする。如何様にも読める初期の阿部和重についてもどう読むべきかの指南は鋭い。


なんだかんだいってもこの手のジャンルでこういうことを書いてくれる批評家は少ないので、仲俣暁生の存在はありがたいと思わねば。ちなみにこの本の出版直後に吉田修一が『パーク・ライフ』で芥川賞を受賞したのね。



風の歌を聴け

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