M&O plays 『死ぬまでの短い時間』 （ベニサンピット）
作・演出：岩松了
岩松了という有名な演出家の作品を初めて観る。秋山菜津子、古澤裕介（ゴキブリコンビナート）、内田慈という好きな役者が３名も出るのでこれは見逃せなかった。古澤と内田の共演はポツドールの『恋の渦』以来だ。北村一輝目当ての女性客で会場は満員、なにやら音楽劇らしいが、どんな芝居になるのだろうか。
飛び降り自殺の名所があり、そこへ人を送迎するタクシー運転手と、自殺を遂げようとする女の物語。なんというか幻想的で美しい作品であった。そのうえ極めて演劇らしい魅せ方でしっかりとした表現をしてくれていたように思う。こういう立体的な芝居がいちばん文章で説明しづらいが、イメージ（絵）的にも内容的にも充実していた。時折挿入される生バンドの音楽、歌詞が直接的過ぎて少々格好悪いかなとも思ったが、女性ボーカリストの声質が作品の雰囲気にマッチしていてまあ無いよりはよかったかなという程度か。
北村一輝と秋山菜津子、主演を務める実力派の演技はこういうせまめの会場だとさらに迫力が増すものだ。己の体と声と表情を見事に（そして自然に）操り期待に違わぬ素晴らしい力を見せつけてくれた。お目当てだった古澤と内田も同様。自分のキャラと役割を把握したうえでの神経の通った演技には、ますます好感を持ってしまった。特に今日の内田は発音の仕方や間の作り方等、細かい点においても丁寧に演じていた。そろそろ彼女の主演舞台を観たいと思うがどうだろうか。顔もいいけど、それ以上に表情や声質が魅力的だ。
なにかと笑いを取ったりだとか、奇抜な演出をしたりだとか、そういうのがどうしてももてはやされがちな小劇場界ではあるが、こういう観客に正々堂々と対峙して感動を与える作品がもっともっと、世に生まれてくれば観る側としても楽しみの幅が広がるというものだ。ストレートなことでも個性は発揮できるはず。
