上原ひろみ 〜Hiromi's Sonicbloom 『タイム・コントロール日本ツアー』(横浜BLITZ)


従来のメンバー(上原ひろみ、トニー・グレイ、マーティン・ヴァリホラ)にギタリストのデビット・フュージンスキーを加えた、その名もHiromi's Sonicbloomの来日ツアー。11月中旬〜12月上旬にかけて全国13会場を回るスケジュールである。個人的な感想として、この編成のアルバム『タイム・コントロール』はそれほどのめり込んで繰り返し聴くほどの作品ではなかったのだが、ライブのほうはどうなのだろうか。みなとみらいにある横ブリに入るのはこれが初めてだ。ヤフオクで買った3列目の席、手を伸ばせばステージに届きそうなくらいに近い。


客電が落ち、ピョコンとメンバーがステージに現れた。ダブル・ネックのギター構えた大男が一人増えるとまるで別のバンドになったかのように違って見えた。もったいぶらずにさっそくそれぞれが楽器に向かい、1曲目は‘TIME DIFFERENCE’だった。テーマ部はCD音源と同じようにピアノとギターが持ち前の器用さを活かして絡み合ったり、ピッタリ合わさったり、ぶつかって、解けて、またぶつかって、面白いように息の合った、そのうえ他にないスリリングなパフォーマンスであった。もちろん両者ともハイ・テクニックを存分に駆使している。ソロ・パートになるともっとライブらしく、曲が壊れるか壊れないかギリギリのところでこの瞬間にだけ生まれる凄まじいアドリブを聴かせてくれた。デビット・フュージンスキーのギターは外見から想像できないくらい柔らかだ。ピッキングもフィンガリングもタッチは繊細で音はとてもデリケートだ。上原のピアノにツッコミを入れるかのようなオブリガードのセンスが素晴らしい。リズム・セクションは己の本来の役目に徹するような感じで、近未来的な音が文字通り立体的に立ち上がるような雰囲気を巧く創り出しているように思えた。
タイム・コントロール』からの曲ばかりをこのような期待どおりの水準で立て続けに演奏し続けた。シンセの鳴るパートが増え、そのうえ曲自体もリズミカルでファンキーになった。HERBIE HANCOCKのHEAD HUNTER'Sのようだと書けばイメージが浮かびやすいかもしれない。アルバムのタイトル曲‘TIME CONTROL, OR CONTROLLED BY TIME’という必殺チューンがまず前半のハイライトだ。もちろん上原のピアノは機械のように的確で、しっかり計算された部分と瞬間的に生み出されて演奏される部分とのコントラストが絶妙だ。
スペーシーな空気感に身を委ねる曲‘TIME TRAVEL’から第二部は始まった。しっとりとしたバラード‘NOTE FROM THE PAST’、デビューアルバムからのデジタルチューン‘DOUBLE PERSONALITY’、本編の締めはアルバムと同じく‘TIME OUT’。どれもCDで聴くのとはだいぶ印象が違う。見てるその場から襲い掛かってくる迫力と迫り来る臨場感、生演奏の醍醐味というのはやはり違うものだと思った。





がしかし、本音を書くと上原自身がまだこの路線を完全に消化しきれてないというか演奏もアドリブもどこかよそよそしく不自然だったように聴こえたのも事実だ。自分の音として体に染み付いているようには感じられなかった。彼女の指先から出てくるフレーズひとつひとつは巧みで素晴らしかったし、力ずくでパワフルなソロには平日に横浜まで聴きに来て良かったと思ったが、あの上原ひろみの本当の力はまだ完全に出し切れてなかったのではないか。申し訳ないがこれでは上原のバンドというよりもデビット・フュージンスキーのバンドと言ってしまいたくなるほどギタープレイの個性や存在感に彼女のピアノの音は負けていた。年齢や経験という面も考慮すべきだとは思うが、天才ピアニストに初めて弱点が見えたような気がした。12月9日、日本ツアー最終日に東京国際フォーラムでもう1回見る。




この編成でもう一枚アルバムをしっかり作って、もっと内容の濃い衝撃的なライブを見せてもらいたいと思う。



上原ひろみ 〜Hiromi's Sonicbloom ■ <第一部>
1、TIME DIFFERENCE 2、DEEP INTO THE NIGHT 3、TIME & SPACE 4、TIME FLIES 
5、TIME CONTROL, OR CONTROLLED BY TIME<第二部>
6、TIME TRAVEL 7、NOTE FROM THE PAST 8、DOUBLE PERSONALITY 9、TIME OUT


〜encore〜
10、PLACE TO BE 11、RETURN OF KUNG-FU WORLD CHAMPION


タイム・コントロール

タイム・コントロール