田中康夫『なんとなく、クリスタル』


なんとなく、クリスタル (新潮文庫)

なんとなく、クリスタル (新潮文庫)

ご存知、脱ダム宣言・前長野県知事、現参議院議員日本新党代表)が1980年、一橋大学在学中に書いた大ベストセラー小説。第17回文藝賞受賞作、第84回芥川賞候補作。ポストモダン文学の代表作だとかなんとか言われている。


ポストモダンといってももう四半世紀以上昔の小説である。ブティックやブランド服、アメリカ西海岸のシンガーソングライター等、オシャレ(なつもり)のキーワードをイヤミ含めて頻出させまくっているが、タイトルも含めて今だと読んでるほうがこっぱずかしくなる。そりゃそうだよな。ブサ面の男がこんなこれ見よがしでカッコつけた(つもり?)小説を書いてブームになってたとは不思議な時代だったのだなと思う。ボリュームにして全体の半分を占める注釈もバブル崩壊を経て21世紀に生きる身にとっては体がくすぐったくなるほどぎこちなく、微妙に不器用に感じられる。



がしかし、余分なモノを極力排除したような透き通ってスマートな文体と、当時を瑞々しく生きる若者の描写からは時代にとらわれない小説を読むことの面白さを素直に堪能できた。重みはないが読後感は爽快。古臭いけれども、時代を超えて人間に共通する人生への想いが、キラキラと輝きながら、この小説の中に詰まっている。



いままで政治家としての田中康夫しか知らなかったしあまりいいイメージは持ち合わせていないが、こういうストレートに楽しめるモノを書ける作家は現在でもなかなかいないんじゃないかな?読んでみてよかった。