第44回夏の文学教室:『作家の誕生 デビュー作・出世作の周辺』/ 町田康 『くっすん大黒』の頃(よみうりホール)
はからずもして渦中の人となってしまった町田康の講演。こういう場所にはなかなか現れない作家なので仕事を中抜けして見にいくことにした。持ち時間は1時間、客入りもかなりの模様で幅広い世代の人々がくんくんしていた。町田がここまでじっくり話すのを聞いたのは初めてだ。いい体験ができた。
‘『くっすん大黒』の頃’という講演タイトルからして小説を書き始めたころの話が中心になると思いきや、なんと話題はパンクロッカーを志しバンドを結成することを決意した高校時代のことが大部分を占めていた。70年代中盤のパンクムーブメントに洗礼を受けたあほんだら少年・町田康が試行錯誤しながら自己顕示欲とともに人前で歌うことになっていく過程は幾分ありきたりであったかもしれないが、本人の口から直に話を聞くととても興味深い内容でこの頃からすでに考えていることは常人とは一枚違っていたのだな、さすが町田と思える胸に迫るエピソードであった。とにかく人と同じコトをやっても意味がないという思想、大勢の者が一気に同じことに取り掛かるといつの間にか「〜調」というオーラのようなものが周囲に発生するが決してその「〜調」であってはいけない、周辺を漂うのではなく本質を見定めなければならない、今現在の彼にダイレクトに通ずるたくましい独自の表現欲には頭が下がる思いがした。INU〜町田町蔵の音楽は「パンク調」でも「ロック調」でもなく生々しくも町田そのものの音なのは、このような毅然たる意識に基づくがゆえなのである。
そんな音楽と同様に、町田が小説を書き始めるに至っての見解は‘「小説調」の文章’ではなく自分の言葉で物を語るオリジナリティに溢れるものでなければ意味がないということであった。まあそんなことは驚異のデビュー作を読めば誰でも簡単にわかることであろう。
「〜調ではないこと」をパンクという言葉を何度も用いて語る町田康は、ライブで見るのとも小説やエッセイで読むのとも一味違うさらに奥の深い男に見えた。
いろんなことがあるけれど〜、生きてることは楽しいね〜♪
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