中島らも『空のオルゴール』


空のオルゴール (新潮文庫)

空のオルゴール (新潮文庫)


ブックオフで偶然見つけて即買い。物語の舞台はフランス、奇術師チームが刺客チームと死闘を繰り広げるお話。ほぼ1日でさくっと読み終えた。
余計な文学臭や回りくどい表現が無いぶんだけ自然と染み込むように物語に没頭できるのが中島らもの小説の良さかもしれない。そして心温まる人物描写はこの作品においても大きな輝きを放っている。それぞれに個性の溢れる登場人物のキャラクター設定がニクい。上手い。解説で町田康が書いているように、そこには愛に溢れているのだ。飄々として厭世的な、典型的アウトローなイメージのあった生前の中島だが、小説を読むとキッチリその眼で人間を見ていたのだと確信を持つことができる。
ストーリーの展開のさせ方も見事だ。それは適度にミステリアスで、適度に唐突で、適度に笑えて、読後には大きな満足感と温かみを感じることができる。物語の中の世界へと、読む側の人間へと、両者への温かく細かな配慮が伺える。
感動の大作だとかそういう手の小説ではないけれども、カドのない文章でほどよい温もりを感じ取ることのできるこのような作品もよいものだ。もっとたくさん中島らもを読まなければ。