吉田修一 『ランドマーク』


ランドマーク

ランドマーク


さいたま新都心に建設中のO-miyaスパイラルという芸術的超高層ビルを設計した男(犬飼)と、その建設現場で働く鉄筋工の男(隼人)との話が微妙な距離を持ちながら並行して語られる物語。吉田修一にしては他の作品よりもずっと普通っぽいというかいくぶん地味な感触の小説である。それでも文体には彼独特の力があり、やや冷ややかな世界に引き込まれるようにスラスラと読めた。
女やら家庭やら仕事やら自らの置かれた環境にどこか満たされずに生きる立場の異なる現代人二人の描写には、いつも以上に唸らせられるものがある。隼人が鉄製の男性用貞操帯を着用していたり、犬飼と不倫関係にある若い女とがホテルでピザを注文するかのように男と女の両方を買ったり、犬飼の妻が自宅の壁にネットオークションで買い集めた毛皮を張り巡らせたりと、心の歪みがなかなか変わった方向で外へ吐き出されるという素直に笑えない内容には、さすが吉田修一は世界をよく見ているなというか並みの作家とは一枚も二枚も違うということを思い知った。
高層ビルを男性器に見立てると、主要幹線道路を走る車両は血液で、血液が止まるとペニスは勃起しなくなる=貞操帯を装着した状態になる。というのは東京都庁を男性器に見立てた阿部和重の『新宿ヨドバシカメラ』と似ていると思った。



グランド・フィナーレ

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