演劇キックプロデュース 演劇ぶっく社設立20周年記念公演 『天国と地獄』(シアターアプル) 〜もう1回

作:ジャック・オッフェンバック
脚本・演出:江本純子
出演:町田マリー江本純子小林顕作、澤田育子、田口トモロヲ金子清文、柿丸美智恵、羽鳥名美子
    和倉義樹、高野ゆらこ、武田裕子、延増静美、平野由紀、高田郁恵、水町香菜恵 他


泣いても笑っても千秋楽。昨日に続いて今日も観るのだ。内容はもちろん頭に入っているのでストーリーを追うのに神経を払わずに済む。こういう長い芝居を楽しむという意味においては2公演分チケットを取っておいたのは正解であったかもしれない。主宰・江本の 「千秋楽はエキシヴィジョン」 という言葉どおり、演ってる側からも観ている客席側からもどこか解放されたような雰囲気が感じられた。どう足掻こうとも3時間後にはすべてが終わっているのだ。
この作品の見所はエピローグのフレンチカンカンでもなく、セクシーな第2幕でもなく、、、第一幕・第一場なのではないかと思った。結末になってもどういう存在だったのか釈明されない主婦4人がバラバラ死体を隠す(ゴダールの手法を導入した??)シーン、「世論」役の澤田が登場し自己紹介するシーン、そして江本と町田の絡みにはやっぱりこれがなきゃ毛皮族じゃないなと心の底からホッとしてしまう安心感のようなものを感じずにはいられなかった。町田の歌は昨日とは打って変わって声がよく出ていた。こんなに幅広い音域を歌える役者なのかと感心するほど抑揚に富み抒情的で、愛と憎しみの感情の入り乱れる場の世界を表現し切っていた。これが聴けただけでも今日会場に来た価値があると思えるほど本当に素晴らしかった。細かな表情の作り方からはユリディスの持つ女としての性格が器用に表現されていたように思えた。期待に違わぬ看板女優である。
天国の場面からはラストまで一気に突っ走っていた。何がどうであれわが道を邁進していく毛皮族らしい強引さがすがすがしい。ダンスも歌も、千秋楽になっても彼女らの技量では完成まで到達し得なかった。ハードルを高く設定過ぎたのだ。だが、できないかもしれないことに正面から立ち向かい果敢に挑戦する半裸の女性たちはとても魅力的で、これだから私は毛皮族が好きなんだと、観に来て良かったなと、何物にも替え難い幸せを感じた。メチャクチャでちょっとグダグダで、一見するとふざけているようなんだけれども実は誰よりも真剣にやってるのがハッキリと伝わってくる。ときおり挿入されていた何かのパロディらしきシーンのわけわかんね感も毛皮族ならではのものだ。


何名もの観客を無理矢理ステージ上にあげてまで踊りまくる彼女ら姿を見ていると、この世にあるあらゆる地獄のような忌まわしきものの存在なんかはあっさりと頭から吹き去られてしまった。会場にいるときよりも家に帰ってきて作品の余韻を反芻しているときになぜか鳥肌が立ってきた。



シアターアプル『天国と地獄』、歌舞伎町のステージ上に天国は確かに存在していた、それでよいではないか。