Lunatic Scope vol.2(千駄ヶ谷Loop-Line)


出演:Hair Stylstics(中原昌也、GALAX(ASTRO+宮下敬一)、K.K.NULL、Govemment Alpha + REIKO.A


JR総武線千駄ヶ谷という駅に生まれて初めて降りた。駅を出てすぐ左手に東京体育館がそびえ立つ。Loop-Lineというハコに生まれて初めて入った。いままでいろんな土地のいろんなライブハウスに行ったけれど、その中でも有数にこじんまりとした部類に入る地下スペースだ。フロアはわずかな丸椅子とテーブルを並べただけでもうびっしり。しかし面積は狭いものの、照明やバックドロップの雰囲気はオシャレでかつ余計な派手さやイヤミ臭さがなくいい感じだ。本日お目当てのヘア・スタイリスティックスはトップバッターであった。
先日某新人文学賞を受賞してめでたく100万円をゲットした中原昌也、何に使ったのかな?彼のことだからもう使い切っちゃってるかも。そんなことを思いながら開演の準備を務める姿を私は見ていた。雑誌のインタビューやコラムから思い浮かぶヘラヘラしたイメージとは対照的に、真剣な眼差しで機材をセッティングする姿は知的で深い何かを中に秘めているような独特のオーラが発せられていた。定刻より15分ほどおして客電が落ちた。始まる。緊張の一瞬。。。
いつか町田康のライブのオープニングアクトで見た時と同様、薄暗い雰囲気にマッチした電子ノイズの応酬がひたすら続いていく。ペンライトで手元を照らしながらシーケンサーエフェクターを操作する中原の眼はますます鋭くなっていた。一歩間違えばただのマスターベーションになりかねない難しい音楽性なのだが、もちろん彼はそうならない。序盤はジリジリと、そして次第に轟音へと、メーターの触れ幅が大きくなるにしたがってゾクゾク感と心地よさの入り混じる不思議な感覚に深く引き込まれてしまっていた。焦がすようにフロアを覆う音の渦に飲み込まれてどこかへ行ってしまいそうになる。耳が刺激に慣れてきたころからノイズの中に彼の個性がハッキリと見えてきた。音楽、芸術に対する謙虚で真摯な心と温かな人間味と決して揺らぐことのないこだわりと。どういう過程を経てこのような音が生み出されるのかはよくわからないがここまで明確に表現できるとはやはり只者ではない。大きな志と深い知性に根付いた堂々たる素晴らしいパフォーマンスであった。
作家としての中原以上にミュージシャンとしての彼にももっと注目していきたい。またライブがあるならぜひ行こう!