本谷有希子『生きてるだけで、愛』


生きてるだけで、愛

生きてるだけで、愛


すごいタイトルだなw。本屋で「『生きてるだけで、愛』ください。」なんて恥ずかしくて言えないよー。
この作品と同様に劇団、本谷有希子の次回公演『遭難、』もタイトルに「」がついている。もっちんの「」は、モーニング娘。の「」みたいな、ファナティック◇クライシスの「」、つのだ☆ひろの「」みたいな、そんな扱いになるのだろうか。LRとかw。



本谷有希子の単行本第4弾にして初の恋愛小説。表題作は先日第135回芥川賞の候補にノミネートされた。表紙の富士山と波の絵が美しい。
4作目ともなるとだいぶ余分な肩の力が抜けて、必死でなんとかやってやろうというイタさがなくなってきた。やってることが板についてきた。ヨイ傾向である。読んでみてまず思ったのは、彼女がいま右肩上がりの人であるのがアリアリと滲み出ているということだ。いままで種を蒔きこまめに水を与えていたものにやっと蕾が膨らみ始め、もう少しで花を咲かせるような、これからもっと高いどこかへ飛び立っていくような、そんな匂いが作中に充満している。PRINCESS PRINCESSの『HERE WE ARE』やJUDY AND MARYの『Orange Sunshine』で感じられるあの手の匂いだ。ジャイアンツで1番を打っていた時期の松井秀喜やファイターズで2番を打っていたときの小笠原道大をみているようだ。


メンヘルで過眠症でエキセントリックな奇行の多いあたし・25歳と、同棲する地味な男の話。カップル間の温度差と性格の違いがいい具合に描けている。テーマはまたまた自意識。自己と他者との距離の感じ方を執念ぶかく追求し、それをふまえて女はどう生きていくか、本谷はまだまだここにこだわりがあるようだ。いままでの彼女の作品でみられたくどいほどに克明な心理描写は若干影を潜めて比較的簡潔な文体でスラスラ読めるような色合いの作品に仕上がっているのだが、簡潔といっても決して内容がライトな訳ではなくて、行間を読ませて書いていないことに関しては読者の想像力に委ねる、純文学らしい段階に辿り着いたと言えよう。また、思わずクスッとしてしまうような小ネタの面白さも光っている。小劇場で観客を楽しませるクリエイターらしい一般の文学作品ではみられない新鮮なパーツの宝庫である。これは本谷有希子の一番の強みだ。今作ではこれが非常に好ましい効果を生み出してくれていて私は嬉しい。その部分だけですぐ彼女だとわかるオリジナリティはもう確立されたのだ。
カップリング収録されている短編『あの明け方の』もかなり良い。
もっちん!この調子で書いてくれてれば絶対に大丈夫たよ♪次作はなにか大きなことをやらかしてくれそうな予感がする。



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