阿部和重『ニッポニアニッポン』再読


ニッポニアニッポン (新潮文庫)

ニッポニアニッポン (新潮文庫)


これこそが阿部和重の王道を逝く作品だ。この世の絶対的不可侵たる存在へ、思うことは?
自らの身勝手な行動とそれがゆえに生まれた忌々しい妄想の末に、佐渡のトキ殺戮を計画するI'm just a POOR BOY・10代のひきこもり少年(鴇谷春生)の物語である。イマドキの若者が現代社会との狭間に感じるイライラ加減と狂気とがストレートに力強く描かれている。
インターネットから始まってスタンガン、手錠、催涙スプレー、携帯電話、、、『インディヴィジュアル・プロジェクション』以降の阿部らしい小道具のオンパレードぶりを確立したのもこの作品で、物語の異様さを増幅させる役割をしっかりと担っている。また、何かを語るように詳細な日時設定やカードキャプターさくらおジャ魔女どれみをパロったようなどこか胡散臭げな萌え系ヒロインからもますます阿部らしさが感じられる。
恋が妄想を呼び起こし、それが狂気の行動を呼び起こし、思考の堂々巡りには逃げ道などない。相談する相手もいなければ助けてくれるような都合の良い人も出てこない。『今』の狂いっぷりを描かせたら阿部和重の右に出るものはいないだろう。どこかで見たような美しいジャケットも秀逸。ガリレオふぃがろー。
この作品に芥川賞をあげたかった。


オペラ座の夜

オペラ座の夜