吉田修一『初恋温泉』


初恋温泉

初恋温泉


温泉宿とそこを訪れる男女を題材にした短編5話を収録した吉田修一の作品集。2004〜2005年にかけて「小説すばる」に掲載されたものだ。
物語の舞台はどれも人里離れた秘境と言うべきか自然に囲まれたひっそりした地味な旅館だ。温泉に行く目的は、、、日常を離れリフレッシュするためであったり、不倫旅行であったり、混浴&セックスであったりと物語によって様々である。温泉地という素朴なロケーションにおいて、男女間の微妙なすれ違いや考え方のズレが露呈していく様子が、これぞ期待通りの吉田節!大胆にではなく静謐に緻密に的確に、読み手をジワジワと攻めるように表現されている。
経済的に自立し生活に余裕のある夫婦や結婚を目前にしたカップルでさえもこういうちょっとした齟齬と背中合わせで生きていかざるを得ない現実を考えると末恐ろしくも感じてくる。
白々しい急展開やこれ見よがしなギミックなどは用いなくてもここまで巧みに書ける作家はなかなかいない。伝統的純文学の道を正当に歩む姿勢はもっと評価されるべき!国内実力№1、っていうのは言いすぎ?じゃないと思うぞー。