保坂和志『プレーンソング (中公文庫)』


プレーンソング (中公文庫)

プレーンソング (中公文庫)


前から読もう読もうと思っていてなかなか手が伸びなかった作家・保坂和志、デビュー作を文庫で買ってみた。いざ、挑戦。公式サイトを見てみると西武百貨店でサラリーマン経験があるようだ。そういえば10年位前に私がみっちりハマっていた『J文学をより楽しむためのブックチャートBEST200 (文藝別冊)』の中で、阿部和重町田康と並んで「セゾン系作家」なんて呼ばれていたのを思いだした。偶然以外の何者でもないだろうがなかなか面白い共通点だとは思う。まさか堤がこんなことになるとは夢にも思わなかった時代のことである。
有名どころの名前を引っ張り出すのにやや抵抗はあるがこの『プレーンソング』は、どことなく村上春樹吉田修一の作品のような、肩に力を入れない戦後生まれの若者たちの何気ない交流が描かれた作品である。てにをはで繋げられた一文一文がやたらと長くて慣れるまでは理解に時間がかかりもしたが、この「交流」が大変器用に書かれていて、私はもっと早くこれを読んでいればよかったなとチト後悔。言葉を発する直前の、あるいはギリギリ言葉として発しない場合のような微妙な微妙な人間心理についてよく研究されていて、人間というものがよく見えている作家だと思った。近所の何気ない風景やうろちょろするや、諦めているわけではないのだろうが気概の薄めな仲間たちについての、軽めなのがだ克明な描写もニクい。ほのぼのとした愛らしいノラ猫についての描写も雰囲気抜群で、読む者は誰でも猫に対する意識が変わってしまうにちがいない。
ラストの海で若者たちが戯れ合う場面は情景が眼に浮かぶようでとても気持ち良かった。ありがちなシーンを個性的に描くというのはとてもとても難しいことではないのだろうか。



保坂和志公式HP「パンドラの香箱」:http://www.k-hosaka.com/