大槻ケンヂ 『くるぐる使い』


くるぐる使い (角川文庫)

くるぐる使い (角川文庫)

1994年に出版された当時筋肉少女帯のヴォーカリスト大槻ケンヂの短編集。札幌のブックオフでハードカバーの書版を見つけたので即購入。実はこれ、まだ読んでなかったのだよ。ハードカバーと文庫とでジャケットが違うのね。文庫を買わないで正解。
表題作をはじめ掲載されている5話にはきまってちょっと不器用で一風変わった少年・少女が登場する。お得意のオカルトやSF・怪奇現象を交えて世間との折り合いがつかなかった少年時代の悶々としたやりきれなさを表現する、いわゆる作家としての「オーケン節」はもうこの頃から確立されていた。ところどころ稚拙な部分はあるものの、ヘタな表現技巧にとらわれずスラスラ書かれているのでかなり読みやすい。以下、各物語を紹介。



キラキラと輝くもの」 ― 怪しげな妄想に捕らわれた巨乳女子高生とその兄、豊満な乳房の秘密が悲劇の結末を生み出す…。デンパという言葉がまだ一般的に使われていなかった時代、大槻はやはり先駆者だ。


ぐるぐる使い」― 若い頃に残酷で奇妙な体験をした老人のエピソード。ラブロマンスを含めた予想外の結末に驚いた。老人はイスラム教徒の祈りに何を見たか。


憑かれたな」 ― 悪霊にとりつかれた少女を救おうとする母親と謎の男(元俳優)の話。男の不思議っぷりが上手く描かれている。除霊に関する叙述もうまい。


春陽綺談」― 俗世間に順応できない鉛筆を削り続ける少年は天国を見て、何を思ったか。江戸川乱歩の世界をモチーフに、ルーシー・イン・ザ・スカイ。


のの子の復讐ジグジグ」 ― 同じく天国を見てきたイジメ被害者の少女の物語。不思議な能力を得て時の人となるが、その力でなにをやらかすか…。不気味さとアットホームさが混在する名作。



去年刊行された『ゴスロリ幻想劇場―大槻ケンヂ短篇集』と関連する話もあるので併せて読んでみると面白いだろう。1999以前、オウム以前の時代が懐かしく感じられた。