町田康『東京飄然』

東京飄然

東京飄然


婦人公論誌で連載されていたフォトエッセイが単行本化された。町田康があてもなく東京をぶらぶらぶらぶら脱俗的に、高踏的に日帰りの旅。行き先は早稲田、江の島、上野、銀座、新橋、高円寺etc…。もう言われ尽きているのだろうが、「日常の詰まらない些細なことを独特の文体で、怒り・皮肉・悲哀を籠めて面白おかしく描写する」というお得意パターンにますます磨きがかかり、私は読みながら爆笑しまくりであった。
なかでも流石と思えたのは電車内(東京メトロ、ジェーアール)と飲食店内(うどん屋、ホテルのレストラン、串かつ屋)の客としての心理描写とそこですれ違う人々に対する観察力だ。地下鉄の中で無茶苦茶腹立つおっさんとおばはん、足を広げて座るサラリーマン、目の前に立って謎の紐を垂らしまくるオタクさん、、、飲食店では愛想の悪い店員との珍妙なやりとり、ランチタイムのいまどきのカップル、隣席に座った夫婦の視線、入店したはいいがどこに座るべきか悩み、注文の品がまだ来ない!串カツが一本少ない!!??、、、ただ何気なく生活する者の‘普通な異常さ’を的確に捉えている。よくあることほど面白いものはない。
新橋・銀座では串カツを食すために奮闘し、ライブハウスをめがけて出かけた高円寺では独自のロックスピリット論展開する。飄然と出かけるだけでも楽しい街、「東京」。こんなところで毎日生活している自分の身がなんだか不思議になる、読んでいてそんな気分になった。町田の過去のキャリアを省みても、エッセイ集としては最高の出来栄えではないか。

40代になってから、さらにいいね。