ポツドールvol.18 『愛の渦』 (THEATER/TOPS)


観ちゃうと性欲が減退しますね・・・。

作・演出:三浦大輔

出演:米村亮太朗、古澤裕介、井上幸太郎、富田恭史(jorro)、脇坂圭一郎、岩瀬亮
    美館智範、江本純子(毛皮族)、内田慈、遠藤留奈、佐々木幸子(野鳩)、山本裕子(青年団)

第50回岸田國士戯曲賞受賞作『愛の渦』、再演!初演は2005年4月で、場所は同じTHEATER/TOPS。若き日に田舎の同じ学び舎ですれ違っていたらしき人が、東京でこんな立派な芸術家になっていたなんてその頃まったく知らなかったので観ていなかった。TOPSは年度いっぱいで閉館になるということだ。小劇場らしい(言ってしまえばポツドールにぴったりと合う)凝縮された濃密な空気を作り出すことのできる劇場だったので、これは残念。


開演前のSEはもちろんオカムラヤスユキ。高級マンションの一室で開催された乱交パーティの一夜の物語だ。とにかくもうどうしようもなく下劣きわまりない!!!




まず出演者が凄い。まさに小劇場界オールスターなラインナップだ。古澤、岩瀬、内田、遠藤らはポツの常連だが、まさかここにジュンリーと佐々木幸子が加わるとは思わなかった!!!古澤と江本の共演なんて他では絶対見ることのできない個人的に衝撃のキャスティングで、この段階でもう興奮だ。舞台設備も凄い。中二階にベッドルームを設けたマンションの内装や小道具の配置・セレクトからはこういう場に相応しい淫靡な香りが漂いまくる。コンクリート剥き出しの部屋の冷徹さというのは、愛のない(欲望のみの)セックスとなにか繋がるような気がした…。
そして開演後10分間くらいが凄い。悪趣味なダンス・ミュージックが大音量で流れる中、夜を楽しもうとする者たちがひとりずつ、ひとりずつ来店し、料金を支払う。これから始まるインモラルな遊戯への後ろめたさや緊張感、でも隠し切れない期待感、欲とスリル、不安と期待が渾然と織り交ざる各人の心境を、セリフなしでここまで濃く表現できるとは恐れ入る。
もっとも引き込まれたのは、最初よそよそしかった初対面の男女8名が、打ち解け始めてベッドに向かうまでのあいだだ。軽い自己紹介や世間話から、ついにそれまで口に出すことのできなかった「本音」へと展開する。金を払って一晩で複数の相手とセックスするためにその場にきた俗物の「本音」は異様なまでにリアルで、それは普段私やここを読んでいるあなたが考えていることと違わないはずだ。社会生活においてはそれなりの仮面を被り、与えられた役割を演じて生きる者の化けの皮がペロリと剥がれる瞬間に、気づくと私は手に汗を握っていた。
その後は作品の力と役者の力でグイグイと舞台は進行した。暴力、蔑み、差別、外見・経験の優劣、エゴetc.、、、三浦大輔ポツドールで今までも取り扱ってきたテーマが散りばめられ、「ありえないんだけどこの世界のどこかでたしかに起こっていること」のカオスっぷりや人間の汚さに、目眩がするほどイヤ〜な気持ちになる。あまりに非日常なシチュエーションにおける人間の行動の滑稽さや情けなさも適度な笑いをもたらしてくれた。
そしてやっぱり光っていたのは役者個々人の能力だ。唯一の団員・米村はややヤンキーめな巨根エロ男(いつもこういう役だけど本当にピッタリだ)、古澤は童貞工場作業員(彼もだけどピッタリだ)、内田は見た目清楚だけど実はエッチな保母さん、遠藤はお色気ムンムンOL、江本はパーティーに週5で通う淫乱女、、、みなさんこんなトンデモない場の空気を作るのが本当に巧い。ってかコイツらホントにこういうことヤッてんじゃないの?と疑いたくなるほどに巧いのだ。そんな出演者のなかでも、もっとも衝撃的だったのがメガネをかけて地味な(しかし感度抜群w)学生の役を演じた佐々木幸子だ。虫も殺さぬような清楚で可憐な乙女が己の欲でパーティに参加するという、男としては絶対に見たくない事実をとても丁寧に演じてくれていたと思う。三浦の意志がしっかり浸透し、観る側の心理を押さえた表現は本当に見事だ。
8名の中にヒエラルキーが生まれ、対立や嫌悪がありながらも朝5時にパーティーは終了した。カーテンが開けられ、朝日の入る部屋の中で身支度をし、なにげない顔でそれぞれが日常へと舞い戻っていく様子からも、人間の滑稽さやどうしようもない下劣さ、残酷さなんかがありありと伝わってきた。上演時間は2時間15分くらいか。まるで自分がその手のパーティーに参加してしまったかのような気もして、緊張や不安や若干の後ろめたさに心臓が震えて止まらない。タイトルの『愛の渦』という言葉どおり、性欲のみのハズの一組の男女から、小さく地味な愛情が芽生えるシーンが個人的にはツボ!!終演して、席を立つときに隣席の女性と一瞬目が合ったが、とてつもなく恥ずかしかった。綺麗な人だったけれど、裏では何を考えているのかわからないから怖かった。


TOPSを出て、人で賑わう土曜日の新宿の街を歩く。歩く人々の服の中に隠されたものが色濃く見えるような気になったのは気のせいか、いや、三浦大輔のせいだよ(笑)。ここまでやっちゃったらこれからどうなる?どこへ向かう?ポツドールよ!



愛の渦

愛の渦