前田司郎 『グレート生活アドベンチャー』


グレート生活アドベンチャー

グレート生活アドベンチャー


働きもせず学びせず日々ひたすらRPGゲームに明け暮れる三十路男の物語。ヒキコモリニートの将来は不安でいっぱい、、、のはずなのに彼はなぜかあっけらかんとしてとても楽観的で、アパートを引き払い元恋人の家に転がり込んだ後でもひき続きダラダラした生活を送り続ける。。。
ゼロ世代の新鋭人気アーティスト、五反田団主宰・前田司郎の小説をまた読んでみた。これは『偉大なる生活の冒険』としてアゴラ劇場で公演された作品の小説ヴァージョンで、第137回芥川賞の候補にもなった作品だ。


ゲームの主人公の生活背景やRPGのラスボスの身なんかにくだらないツッコミを入れたり(それがけっこうおもしろい)あいかわらずフザけまくって書いているな(笑)。笑いどころは多いがその中にチラッとだけ孤独や愛や不安etc…、人間が普通に持つ感情を覗かせる。
ネラっているのが見えちゃって鼻につくような気もするが、従来小説というジャンルで誰もやらなかったことをどうにかして模索し芸術として確立してしまおうという心意気は男らしく、私はこういうのには好感を抱いてしまう。どうせマジメに書いたところでいままでの文豪に敵うわけないんだから、とでもいうような堂々とした開き直りぶりはここまでいくとかえって清清しい。
何事にもやる気を見出せずに無を追求するかに生きる中にも、もちろんそれなり以上の哲学やアイデンティティは存在するものだ。派手でグレートな生活を営む人々が持て囃される傾向の強い世情にアンチテーゼを投げかける作風は、初期町田康に通じるものもあった。圧倒的な読後感や大掛かりな仕掛けとは縁遠いが、前田という若手作家にはなぜかいつもふしぎな大物感を感じてしまう。