前田司郎 『誰かが手を、握っているような気がしてならない』


誰かが手を、握っているような気がしてならない

誰かが手を、握っているような気がしてならない


前田司郎を運良く古本屋で安価でゲット〜。まるでこの世の創造主たる全知全能の神が「これを読め!」とでも言っているかのような運命的な出逢いだった。彼の小説を読むのは『愛でもない青春でもない旅立たない』に続いて2作目になる。

なんとも個性的で独特な作家だ。読み始めると一般的な文学(なんだそりゃ?)とはちょっとかけ離れていて、正直言って読みづらかった。文章は平易でむしろ丁寧なんだけれど、作品の大部分を占めるのは登場人物それぞれの脳内で起こる心情の吐露だ。感覚的で観念的な表現に溢れ、解るような解らないようなもどかしさを誘う。頭がよじれたぜ。でも出てくる人々が思うことにはすごく共感できるよ。



人物設定やストーリーの展開はさすが劇作家、読み手を巧みに引き込むように書かれている。多々の伏線は最後にはしっかり決着がついて手応えもいい。
悩める孤独な「神」と破綻寸前の四人家族。「神」はこの世の万物を創り出した。それと同時に、「人間」は言葉を持つようになって以来、それぞれに「神」を定義し始めた。それでは「人間」の存在は何によって定義されるのか。どうして私は私なのだ!?「神」の言葉が聴こえると言うのは家族のなかでは次女だが、それではその「神」を創ったのは誰なんだ??どうして「神」は「神」なのだ!?
概念やアイデンティティが交錯し、悩める「人間」と悩める「神」とが急接近、いろんなことがあったけど、温かくて確かな温もりをしっかりと感じ取ることができた結末はとてもロマンチックだ。


前田司郎はいつか化けそうな気がする。飄々としたフリをしていくけど、実はすんごく試行錯誤している。演劇よりも小説の方で大きなポジションを獲得しちゃったりしてね。