吉田修一 『静かな爆弾』


静かな爆弾

静かな爆弾


安定した力でコンスタントに佳作を発表し続けている吉田修一の最新作。『中央公論』に連載されていたもの。
報道番組制作に携わる主人公「俊平」と耳の不自由な恋人「響子」の、神宮外苑を舞台としたいつも以上にかなり静謐な物語である。注意深く行間を読ませることを念頭に置かれて書かれているように読めた。二人の筆談でのやりとりはまるでサイレントムービーのような静けさを伴っているが、そのなかに垣間見えるいまを生きる若者らしい苦悩や孤独、障害者にしかわからない心情などがこの小説の読みどころだ。
当たり前に通じると思っていたはずのこと、伝えたくても伝えられないこと、、、登場人物間の「コミニュケーション」はもろく、きわめて脆弱である。そんななかでの心情の推移や機微が美しく、ロマンティックに描かれている。
仕事で成功をおさめていく「俊平」と、穏やかな「響子」の迎えた結末は100%ハッピーではなかったかもしれないが、読み手の心に深く染み入る。グイグイ引っ張っていくような筆力で読ませる作品もいいけど、こういうデリケートなのもいい。


吉田修一『静かな爆弾』 音なき世界、伝えたい思い (MSN産経ニュース