前田司郎 『愛でもない青春でもない旅立たない』


愛でもない青春でもない旅立たない

愛でもない青春でもない旅立たない


三茶のブックオフで見つけて即買い。正方形に近い定形外サイズはたしかなインパクトがある反面、保管に困る。本棚から微妙に飛び出ちゃうんだよ。
五反田団主宰・前田司郎の小説家としてのデビュー作。第26回野間文芸新人賞候補作だ。初出は『群像』2005年8月号(Wikipediaより)。書いてる人が同じなのだから当然のことだが、物語の雰囲気や空気感は五反田団と極めて近い。だらしない男の子のゆるりとした特に幸せでも不幸せでもない日常を切り取って、(冷めてるわけじゃなくて)涼しげな人間関係についてだとか、熱のこもってるんだかこもってないんだかわからない恋愛についてを、今の若手作家らしくダラダラダラダラと書き連ねている。浮遊感のあるユーモアや一歩間違えば変態的なシモネタを交え、まるで散文であるかのように暑苦しさを排除させた文章は、軽い共感とノスタルジーを呼び起こさせる。アルバイトをしながら適当に大学へ通う「僕」、なんとなく私に似ているようだし、もしかしたらこれを読んでいるキミにも似ているかもしれない。


主人公「僕」と「山本」と「元宮ユキ(巨乳)」の付き合い方は、どこか『ノルウェイの森』の「僕」と「キズキ」と「直子」の3名を思い出してしまうものがある。彼らの関係が五反田の街が再開発で変貌してゆく様と重なり合い、独特の幻想さと不思議な美しさを醸成している。
技術的には拙さはあるかもしれないが、オリジナリティが濃いだけに他の作品が気になる作家だ。