本谷有希子『グ、ア、ム』

新潮 2008年 01月号 [雑誌]

新潮 2008年 01月号 [雑誌]


先月劇団の公演直前に本谷有希子の最新中編小説が発表されていた。『偏路』公演時に劇場で売っていたので公演パンフレットと一緒に即購入。吉田修一の短編や町田康の詩も同時掲載されているのでこの本はおトク。



ちょっと前まではたどたどしくて読みにくかった本谷の小説だったが、いつの間にか文章が上手くなっているではないか!これくらいシンプルに書いた方がいいな。普通に面白い。最高傑作でしょう、これは。
誰もわざわざ文章にしないような日常のなにげない細かいコトを妙に拡大させて笑いを取ったりだとか、的確かどうか疑問に思わせるような比喩の用い方だとか、デビュー作から小説でたくさん取り入れてきた技法がこの作品ではうまくキマって爽快だ。演劇出身者としての特性が活かされたのか、人物の行動や様子が立体的に描かれていて目に浮かぶような感じで読めた。これまではかなり説明的で執拗だった心理描写もクドすぎず、これくらいで十分だ。
自信過剰で性格のねじ曲がった姉(北陸から上京、20代後半の氷河期ロスト・ジェネレーション、アルバイト生活)と、異様に堅実で用心深い妹(北陸で就職したのに大阪勤務)と、あっけらかんとした母親との3名がグアムに家族旅行に行くお話である。登場人物からしてもう本谷有希子全開、対照的な姉妹の様子は去年映画にもなった『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』に通じる点が多い。
旅行の工程の要所要所でトホホなハプニングが噴出、プランは次々に破綻し姉妹関係は当然のごとく悪化、それに対してなにもできない母親、血の繋がった間柄であるからこそフレンドリーになりきれない歯痒さの描き方はおみごと。
ちなみに劇団、本谷有希子の公演『偏路』では‘善意’がテーマとのことだったが、この小説の中でも後半で、母親にいい思い出を残してあげようと、表面ヅラで仲良くして見せようとする姉妹の不自然で気持ちわる〜い‘善意’が描かれている。



同じ若手女性作家として川上に先を越されてしまった本谷だが、今年はもしかしたらこの作品でいいことがあったりしてね♪