NYLON100℃ 31st SESSION 『わが闇』(本多劇場)

作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演:犬山イヌコ みのすけ 峯村リエ 三宅弘城 大倉孝二 松永玲子 長田奈麻
    廣川三憲 喜安浩平 吉増裕士 皆戸麻衣
    岡田義徳 坂井真紀 長谷川朝晴


もうすぐ公開される映画『グミ・チョコレート・パイン』が観たくて観たくて待ち遠しい今日この頃、KERAの現在の本職であるナイロン100℃の本公演を観に行ってきた。久々の新作ということでもちろん会場は満員御礼、客それぞれの期待がすご〜く膨らんでいるのを入場しただけでハッキリ感じ取ることができた。倉持裕の姿を見かけたぞ。会場ロビーの匂いからしてもう違う、ここのファンは濃いよなぁ。


ホームドラマ、と言って差し支えないだろう。3姉妹と両親の暮らす家、その家族を取り囲む人々のお話。ナイロンの作品にしては比較的ひっそりとしたテイストかもしれない。奇想天外な演出や大きく笑いを誘うシーンは最小限に留められている。舞台美術や照明ももちろん内容に釣り合ったスタイルだ。
そんな地味めの芝居だが、彼らが演じるとなぜかとても不気味に見えた。登場人物の何気ない行動やセリフの奥に、この劇団特有の何かが潜んでいるはずだとつい穿った見方をしてしまう。ポイントを探っては余計な深読みをしたくなってしまう。もしかしたらそれは自分にとって正しい見方だったかもしれないし、もしかしたら誤りだったのかもしれない。ケラリーノ・サンドロヴィッチの意図は何なのだろうか。様々な疑問や謎が頭の中で交錯し、物語世界に没頭するのにはやや時間がかかった。


5月の『犬は鎖につなぐべからず』、以来のナイロン、役者陣の個性は今回も健在。犬山イヌコみのすけ峯村リエ松永玲子、、、それぞれが持ち味を遺憾なく発揮しさらりと大人っぽく仕上げていた。前回出演しなかった犬山だが、やっぱりナイロンで見る彼女が一番好きだ。小劇場界№1の実力者だと私は断言したい。飛び道具・大倉孝二も期待通りの奇天烈ぶりだ。存在感が強すぎる。彼が舞台上にいるときまって何かがまき起こる、、、目が離せないのは当然だ。日常にありふれたことを妙に拡大させて笑いを取るという得意技にも感服。そして父親役の最年長・廣川三憲の不器用さを兼ね備えた滑稽な渋みはますます円熟味を増し、キーパーソンとしてこの劇団のネームバリューに恥じない素晴らしい演技を魅せてくれた。客演の岡田、坂井、長谷川もスムーズに溶け込んでいて、器用な演技をしてくれていたと思う。



物語がグラリと動いたのは後半の1時間だ。心にグサリと突き刺さるナイロンらしい展開、予想できないまさかまさかのナイロンらしいシュールなオチ、そしてナイロンらしからぬ某女史の体当たり。小さなスリル、思わず失笑、なぜだかドッキリ、コンパクトだけれどもミドコロは立て続けにやってきた。どこにでもいるような凡人の心の機微を巧みに汲み取り、時には増幅させ誇張し、時には高いところから思い切り突き落とし、時には爽快に笑い飛ばしてしまうというKERAの技法の幅広さと表現力の深さにはさすが!と、大きな拍手を送りたくなるほど大きな感銘を受けた。何気なく目眩を起こさせるステージセットの秘密もニクイ。やっぱり今回もすごいぞ。



先入観かもしれないが岸田國士の題材を扱った経験がこの作品では大いに活かされているように感じられた。私のように闇のなかをまごまごしながら生きている取るに足らない者を扱い、そういう者の心を大きく動かす強い味方として、ケラリーノ・サンドロヴィッチは名作を生み出してくれたのが嬉しい。温かい雰囲気のカーテンコール(KERA本人も登場!)も印象深い。新谷真弓の姿がなかったのは残念だが、クリスマスイブにもう一度観る予定でいる。