村上春樹『走ることについて語るときに僕の語ること』


走ることについて語るときに僕の語ること

走ることについて語るときに僕の語ること


久しぶりだな、村上春樹の書き下ろし新作。マラソンランナーとして、小説家としての彼がこれまでの人生を振り返った自伝的な本だ。
風の歌を聴け』で作家デビューしてから25年以上、こういうのは初めてではなかろうか。走ること≒小説を書くこと、と言わんばかりに、実際の生活やエピソード(練習やレース)をふまえながら、走ることについて、小説をかくことについて、生きることについて、珍しく心のなかをストレートに吐露している。ここまで春樹の裸の姿が独白されている本は貴重である。来年の1月で彼ももう59歳になる。還暦を迎える前に何かひとつ区切りをつけるような、一旦整理するような、文体からはそんな匂いが感じられる。個人主義的でなかなかアウトローな男だけれども、やっぱりそんな彼が私は好きだと思った。



村上春樹は残りの人生であと何本長編を書けるのだろうか?