毛皮族7周年記念公演 『おこめ』(本多劇場)〜千秋楽!〜

作・演出:江本純子

出演:江本純子町田マリー、羽鳥名美子、高野ゆらこ、武田裕子、延増静美、平野由紀、高田郁恵
    柿丸美智恵、金子清文、米村亮太朗ポツドール)、澤田育子(拙者ムニエル


さてさて、千秋楽を観に行ってきたぞ。これで終わりかと思うと寂しい気持ちがする。素晴らしかった。2回観たけどもっと観たかった。だってだって、米村亮太朗町田マリーが兄妹で、その母親が澤田育子だなんて豪華過ぎ。小劇場界オールスターゲーム状態じゃね?私が今年観た演劇のなかで一番の作品だ。はてなダイアリー内随一の毛皮盲目マンセーブロガーとしては何から書くべきか大いに悩むが、思ったことをそのままだらだら書き連ねてみよう。



『おこめ(本編)』

小平義雄連続殺人事件、太平洋戦争末期〜終戦直後にかけて7名の女性を殺した男とその家族ら(おそらく半分くらいはフィクション)の物語がモチーフとされている。残忍な役柄を演らせれば天下一品の米村亮太朗がらしい演技をみせてくれた。小平の母親役は澤田育子、妹・久美子役は町田マリー。俳優になるために秋田の農村を脱出し上京した兄と、生きる目的もなく退屈な田舎でひたすら米づくりに従事せざるを得なかった妹、両者の人生の対比で物語は進行していく。義雄は異常性欲を持ち都会で出会う女を次々と殺し、強姦し、遂には死刑宣告を受ける、、、妹は結婚もできず人生の目的を見出せないまま発狂し、首を吊って自殺してしまう、、、という救いのないストーリーだ。
まず米村はまさに適役であった。田舎育ちの一見すると純朴そうな青年がいざという時に狂気をみせる。女の扱いに慣れたような口ぶり、獲物を見定めるような視線、さすがポツドールで鍛えられているだけはある。陰鬱な題材に見合った実力者だ。羽鳥名美子を犯すまでのやりとりはリアルに怖い。
その妹、町田。穢れをしらない可憐な田舎娘、今の彼女ならハッチャケた役柄よりもこういう役のほうが能力を発揮できるのだろう。セーラー服姿も可愛らしかったし、朴訥とした演技のなかに笑いだけでなく諦めや苦悩を含ませた母親との会話が印象に残る。田舎に埋もれる複雑な想いが手に取るように理解できた。前回の本公演、ここ一年の軽演劇、他の劇団への客演、と私が見てきたなかでも今回は一番器用に丁寧に演技していたように思える。もうかなりのネームバリューがあることだし、毎回これくらいやってくれないとね。
毛皮でももうおなじみ澤田育子の実力もいわずもがな。ハッキリとした顔立ちのせいかアヴァンギャルドな役を与えられるイメージが強いが今回は米どころの農婦という地味だが出番が多くて重要なポジションをキッチリ務めてくれた。彼女の力に頼らざるを得ないという劇団の現実がどうこうは別にして、毛皮族の本公演にはなくてはならない存在だ。オバサン喋りも自然だったしスタイルが良いのでモンペもよく似合っていた。そしてなにより母性溢れるセリフ回しがいい。
パイロットのような衣装で語り部として登場した江本純子。彼女が出てくると場が朗らかになると同時にキリっと引き締まるような感じがした。重苦しいシチュエーションのなかに一滴の清涼剤を注ぐかのごとく、和ませてくれたし、出てくるのと出てこないのとでは大きく違ったと思った。武田裕子とのやりとりも面白かったぞ。
残りの劇団員をまとめると、延増静美高野ゆらこのコンビが光っていた。米づくりを手伝いに来るオバチャン役として甲高い声を出して早口でまくし立てるシーンで、場内は笑いの渦。どちらも毛皮族らしい妖艶さ・ほどよい如何わしさと滑稽さを兼ね備えているキャラだし、それをしっかりと表現に反映させていたと思う。もっと出番が多かったらもっと面白かったかもしれない。意味の分からない言葉を早口で並べ立てて結局殺されてしまった平野由紀毛皮族らしいどうしようもない馬鹿馬鹿しさを表現していたし、すっかりオトボケキャラが板に着いた高田郁恵の着物姿も可愛らしかった。あ、柿丸のお婆ちゃん姿はハマリ過ぎでホンモノの老人かと思った(笑)。


歌無し・ダンス無し、新路線のこの作品、全体を通して町田マリーと澤田育子の怪演のおかげもあって、実家が自営業で長男で地方出身の私としては、登場人物の閉塞されてどこにも行けない絶望や嫌でも受け入れざるを得ない田舎者の運命とその救いのない結末、、、大変見応えがあった。捕まった小平義雄が母と面会するシーンでの澤田育子の表情があまりに痛々しく記憶から離れない。。。
もう脱ぎナシでもヤレるんじゃない?          「癌ですの。」、というの笑えないブラックジョークでは……。



『おこめ(外伝)』

本編とは打って変わっていつもどおりの毛皮族。『スチュワーデス物語』と映画『007シリーズ』をMIXさせたおバカなレビューだ。こちらでも町田マリーが器用なパフォーマンスをみせてくれて大いに笑わせてもらった。ドジでノロマなカメ・堀ちえみの臭〜い芝居の特徴を的確に捉え(物凄い能力だ!!)、一言一言面白かった。思えば80年代はいい時代だったなー。他の訓練生たちもきわめて個性的で、本編よりも脇役の見どころが多かった。‘愛もとまらない’、ダンスが綺麗だったなー。美女たちがキビキビと踊る姿にはいつもドキドキする。恒例のニプレス姿やどうしようもないハチャメチャシーンももちろんあり、一個のオニギリを巡って訓練生たちが論争するシーンでは本家同様にそれぞれのキャラ分けが見事に確立されていてやっぱり毛皮族だと安心できた。竜宮城のシーンも華やかで皆さん可愛らしかった。義手をつけたピアニストタイピスト澤田育子の存在の濃さや教官ジェームス・ボンドを演じる江本純子のスマートなカッコ良さも印象に残っている。武田裕子が演じた特徴の無い中部地方出身者の役はあまりに美味しすぎだ。さわやかに訓練生が飛び立っていくラストは爽快!007の知識を頭に入れて臨まなかったことをやや後悔。
毛皮族の公演を観る度に書いていることだが、高野ゆらこの持つキャラクターと独特の魅力とオンリーワンの美しさには本当に惹かれたし、全員がステージにいたとしてもついつい彼女に目が行ってしまった。ダンスもキレが良くて彼女が最も素晴らしいのだよ。外伝では彼女が踊っているシーンが一番記憶に焼きついている。次回は主演でもいいかもね(笑)。



長々とだらだらと書いてしまったが、今作に関してもまた演劇的でもお笑い的でもなく、『毛皮族』というSHOWをたっぷりと堪能できたと思う。奇抜さは減ってきたのかもしれないが他にも見るべきトコロは有り余るほどにあるのだ!



2月になにやらあるらしいのでまた!!