劇団、本谷有希子第12回公演『ファイナルファンタジックスーパーノーフラット』(吉祥寺シアター)

作・演出:本谷有希子

出演:高橋一生笠木泉吉本菜穂子、ノゾエ征爾(はえぎわ)、松浦和香子(ベターポーヅ
    高山のえみ、斉木茉奈、すほうれいこ


きました!劇団、本谷有希子待望の第12回本公演。この『ファイナルファンタジックスーパーノーフラット』は、第3回公演の『ファイナルファンタジー』を大幅にリメイクしたものとのこと。主演には高橋一生、珍しく男性が主役なのだ!そして周りを取り囲むのはレギュラーの吉本菜穂子ベターポーヅ松浦和香子等、面白そうなラインナップだ。他の劇団を観るのとはちょっと違う大きな期待を抱いて吉祥寺シアターに入場した。

スーパーノーフラット=超三次元世界
01年に上演された第3回公演『ファイナルファンタジー』を大胆リメイク。
複数の女達が一人の男のもとで同じ髪型、同じ洋服、同じ立ち振る舞いを 強要される奇妙な状況下の物語。
前回公演『遭難、』で第10回鶴屋南北戯曲賞を受賞後、初となる本谷有希子の劇団本公演!
 (オフィシャルサイトより)


上記のとおり異常な状況下でフツーじゃない男女を描いた今回もいかにも本谷有希子らしい作風である。純愛を貫く姿勢に拘泥するがゆえに恐ろしい場を作り出したトシロー(高橋)、インターネットを通じて廃業した遊園地に集まってきた同じ格好をした4名の若い女性(吉本、松浦、高山、斉木)、なんとしてもそこから妻を救い出そうと試みる書籍編集者(ノゾエ)と相棒の新鋭若手女流作家(すほう)、、、誰の考えが正しいのか、誰の考えが誤っているのか、一般的な常識や物事の価値・判断基準に疑問を抱く者たちが巻き起こす奇妙な物語である。
小説家と兼業の劇作家らしく、脚本は非常に良く描けているとまず思った。状況設定は奇抜であってもストーリーはむしろスムーズで場の異様さのワケが徐々に暴かれていく過程には小説を読むような感覚に近いかたちで引き込まれていってしまった。マニアックで一風変わったヤツではあるがちょっぴり共感できるようなピュアな一面がある、こんな主役をつとめる高橋一生の演技はまさに適役。トシローの持つ純粋さと異様さの入り混じった多面的なキャラクターや裏になにを考えているのか読み取れないような雰囲気が確かに表現できていたように思う。
トシローの初恋の相手・ユクという名の女の子と同じように振舞うことを要求される女性4人の役づくりは非常に難しいものがあると思えた。劇の中でさらに演技するという変わった構造、4人が同じように振舞う中でそれぞれのキャラクターは出すべきなのか、それとも必要以上に出すべきではないのか・・・。どっちがいいのかは私には最後まで分からなかったのだが、吉本菜穂子は相変わらず熱演を見せてくれていた。その状況に辿り着くまでの苦難や個人的に抱える背景をいかにもそれらしく演じてくれていた。この劇団の作品にはなくてはならない女優である。吉本以外の3人(松浦、高山、斉木)に関して言えば、もうちょっと頑張って欲しかったように思う。それぞれアピールされるシーンがあるにもかかわらずどうもキャラが立ってこなかったのはヘンテコな状況と与えられた役のせいなのだろうか。どうだろう?
そんな風変わりなシーンの連続で舞台は進行していくのだが、後半になると徐々にトシローの心中が露わになっていき作品が核心へと迫っていく。ただ、何故かそこからトシローが奇怪な行動に出ていった理由づけが無理矢理っぽくなってきたり、ストーリーを端折って説明するようなセリフが多くなったことが残念だ。あれほど頑ななまでに社会に背を向けていたトシローがなぜコロっとウサギの耳を外してしまったのか。これまでトシローを支えてきたはずの価値観はそんなに軽いモノだったとしたならば、この作品の前半はなんだったのだ?きわめて重要な役・縞子(笠木泉)の描写も物足りなかった。後半になって縞子がトシローに愛を伝える場面があったがセリフも演技も薄っぺらく、迫ってくるものが全く感じられなかった。本谷のわりにはツメが甘くないだろうか。状況設定やストーリーのもっていき方が面白かった半面、盛り上がるべき・訴えるべき重要なシーンがグッとこないのはあまりにも致命的であった。来週もう一回観るのでもしかしたら私の感想は変わるかもしれない。いい方に理解できればよいのだが・・・。
「アタシという一人称で小説を書く人気の若手女流作家」という本谷自身をモデルにしたようなおいしい脇役を与えられたすほうれいこは頑張ってはいたものの、場にそぐわない雰囲気は拭いきれず、やはり演技もどこか弱かった。




劇団、本谷有希子http://www.motoyayukiko.com