石橋英子×アチコ 『ロラ&ソーダ』

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まずジャケットだけでおっと思わせるようなインパクトがある。良い作品というものは往々にしてアートワークも素晴らしいものである。


ピアノとヴォーカルのみという最小編成のユニット、PANICSMILEMONG HANG町田康バンド等で幅広い活躍をみせるマルチプレーヤー・石橋英子(p)と、元on button down〜現KARENのVo.アチコの初音源。聴く前は仲のいい女の子同士が意気投合してつくっちゃいました♪というような企画色の強い作品をイメージしていたが、これがなかなかスゴイのである。かなりスゴイのである。AxSxE氏をエンジニアにむかえ、茂原市のホールを借りきって録音されたという。(ttp://d.hatena.ne.jp/achicoo/20060929)

全10曲、どれも曲調は童謡のようにゆったりとスタンダードで、邦楽古来のメロディのよさを持ち合わせた作風なのであるが、通を唸らせるような一癖ある石橋のピアノプレイに料理されたことによるのか、非常に個性がハッキリと露呈されたアルバムに仕上がっている。このピアニストはスゴイ。歌をひきたたせるためのなにげない柔らかな伴奏の中に、マニア心をくすぐってくるような生々しいコードやフレーズが絶妙なタイミングを狙って顔を出す。普段は優しい人が急に奥に潜めた残酷さを露わにしたような、時折ドキッさせられる場面が要所要所でみられるのだ。抑揚のつけ方や曲展開なども感情の起伏を表すかのようにヒューマニスティックで、聴けば聴くほどにアルバムの世界へ入り込んでしまったり共感を呼び起こさせられたりする。よく勉強しているというか、非常に研究熱心なピアニストなのだなあと唸ってしまう。
そんなピアノに乗っかるアチコの歌のほうも同様に個性的である。声が若いわりにはなにげに硬い芯があるので最初はどう聴いてよいのかわからない気もしたが、女性らしく柔和に声を膨らませ、世界を共鳴させるかのようなしっかりとした強い意志がみごとに表現されている。力を抜いて聴いているだけでも耳に訴えてくる確かなものを持っている。
それに加えて曲タイトルのつけ方、詩のテーマ・ひねくれたことばづかい、曲順など細かいところ隅々にまで神経が行き通っているので繰り返して聴くうちに新しい魅力を発見してしまったり、隠された面白みにニヤリとさせられたり、奥行きも十分に深いアルバムである。買ってから1ヶ月以上経っているがまだまだ隠された魅力は盤の中にきっと埋まっているように思えるし、繰り返し聴くうちにそれをちょっとづつ発見して咀嚼していく楽しみ方もできるので2200円はお得だ。長く付き合っていくアルバムになりそうだ。

93点。