吉田修一 『日曜日たち』


日曜日たち

日曜日たち


最近文庫化されたので買おうと思っていたところ、仕事中に大塚駅前のブックオフで帯付き単行本・初版を発見したので即購入。いまいち有名になりきれない作家だが一定以上の根強い人気を維持しているようだ。
これは「日曜日○○…」というタイトルの短編5作を一冊にまとめたもの。作者のインタビュー(『IN★POCKET 2006年3月号』〜「日曜日たち (講談社文庫)」文庫刊行・吉田修一インタビュー〜)によると、どうやら最初から一冊の本にまとめることを構想して書かれたものらしい。
都会に生きる若者のありふれた生活が描かれえた5作。どの物語でも普通に生きる者たちの普通の人生が綿々と描かれている。その中では突拍子もないドラマや信じられないような奇蹟なんかは何も起こらない。しかし、それがいいのだ。平凡な日常をただひたすら繰り返し、ただ死が来る瞬間までその平凡さに組み込まれるのが宿命である私のような凡人にとっては、それ以上のリアリティはない。生身のヒトをよく観察し、よく考え、素晴らしい文章に仕上げる、、、吉田修一らしい仕事だ。普通の人の普通の人生を書かせたら彼の右に出るものはいない。
内容的にはに関連のない物語の集まりなのだが、母親探しのためにリュックサックを背負って九州から上京する幼い兄弟が5作全てに登場してきてそれぞれの話にコクを与える。まさかこんな脇役がフックになっているとは思いも寄らなかった。「なるべくつながってることを(あえて)書かないでつなげたいな」という作者の演出がニクい。
パーク・ライフ』に匹敵するほどおもしろくて読み応えのある本だ。オススメ!!