『労働者M』(Bunkamuraシアターコクーン)

作・演出 : ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出 演 : 堤真一小泉今日子松尾スズキ秋山菜津子犬山イヌコ

空手バカボン〜元有頂天のケラ氏がなんとこのタイトルの舞台を!ダイヤモンドはただの石。日々の詰まらない出来事をずうずうしくもこんなタイトルでWEB上に晒している私にとってはどうしても観ておかなければならない作品であるのだ。初日を観てきたぞ。休息含め3時間半!長いよ!!

出演者は全員が一人二役。二つの物語が交互に同時進行するフシギな設定。一つは近未来の強制収容所で、支配する者と支配される者が突然入れ替わるというおかしな施設、もう一つは自殺願望を持ったり精神に悩みを持つ人々を相手にねずみ講のような商売をするこじんまりとした会社の事務所。こんな設定なので観客の焦点は一つ!そう、二つの世界がどう繋がっているのか?もしくは結局最後まで繋がらないのか?ということだ。とりあえずどちらの世界にも共通するのはところどころなにかが欠けている、ということだけだ。
ネットなどでこの芝居を観た人の様々な意見を調べてみた。どうやら賛否両論のようである。結末に納得のいかない人が多いようだ。私はどうかというと、大変楽しめたし、あっけないラストシーンには鳥肌が立った。二つの世界は最後の最後にきっちり繋がった。長時間の舞台を堪能できて嬉しく思っている。抽象性が高くて観る者それぞれにいろんな見方のできる作品であると思った。これで終わりなの??という消化不良感やわだかまりも感じたが、それはこの作品の意図するところなのであろう。「観て楽しむ」というよりも観た内容を家に帰ってからもどう解釈するかを時間をかけて考え抜く労働作業にこの舞台の醍醐味があるのではなかろうか。9000円分モトを取りたい者は労働者とならなければならない。働け〜。働け〜。あの結末からさかのぼってその3時間半前の前説まで、自己の脆弱な記憶力だけを頼りに歯で噛み砕いたり、舌の上で転がしたりして遊ぶのは思いもよらない発見があったりして楽しいものですぞ。
小泉今日子の演技を生で観るのは初めてであったがほんのりと温かくて面白く思えた。昔テレビドラマで観た彼女の姿が懐かしい。それよりもなによりも凄かったのは犬山イヌコの演技だ。キャラクターの異なる2役をどちらも強烈な個性を発揮して演じ分けていた。彼女の演技を見るだけでもこの作品を観る価値があると言い切れる。
内容は凄くギッシリで絶大な満腹感、時に笑いもあり、ストーリーのネタをばらすようなメタフィクション的な表現もあり、どうしてこう進行してこう終わったのか、考えれば考えるほど面白い。今までには見たことがなかった新たな魅せ方をしてくれたケラリーノ・サンドロヴィッチ氏に感服。

シアターコクーン・労働者M : http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/event/kera/index.html


空手バカボン ナゴムコレクション

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