井上三太原作、井上靖雄監督「隣人13号」〜CIMEPLEX幕張<ネタバレあり>


よく晴れた暖かい土曜日の昼下がり、幕張新都心は家族連れやカップルやマリサポらで賑わっていた。今まで何度も幕張には来ているがJR海浜幕張駅北口を出てすぐのシネプレックス幕張に入るのは初めてだった。1階にはカフェ・レストラン、ショップ、ゲームセンター、2階はシネコン、現代的な複合アミューズメント施設である。「隣人13号」、ここでは今日が初日とあって客の入りがなかなか良かった。114席とこじんまりしたミニシアターのおよそ8割以上が埋まっていた。
井上三太の原作が大好きなだけに、どうしてもこの映画には過剰な期待を寄せてしまう。原作のよさとそれプラス映画ならではのよさがウマい具合にミックスされていてくれればと、願うような気持ちを胸に席に着いた。


冒頭の場面、海岸に佇む古びた謎の小屋、中に居るのは全裸の小栗旬演じる村崎十三だ。そこへ特殊メイクギトギトの中村獅童演じる13号が入ってきた。印象に残るオープニングだ。
ストーリーはかなり原作に忠実なものであった。小学生の時に十三が赤井トール(新井浩文)にいじめられ、それに対する復讐心が13号という別人格を生み出してしまう。一部分でアニメーションを取り入れていたので映画としては負けでは?という気もしなかったわけではないが、全体的に映画倫理の範囲内の表現でストーリーがわかりやすくまとめられていたのでOKだ。過度なグロさを用いなくても表現しなければならないことは表現出来ている。巧いな。


小栗旬、十三としては顔が可愛すぎだな。うーん、、、申し訳ないが別人格を生み出すほどのトラウマを抱えているようには見えなかった。若き日のオーケンよろしくいつも悩んでいるモテナイ系ブオトコを充てたとしたらどうなっていただろうか?

工事現場の仮設便所でいよいよ13号が出現。ただれた皮膚、不敵な表情、台詞が少ない分なおさら不気味だ。中村獅童は適役すぎ。隣人の金田までもをあっさりと殺害、そのうえ赤井家へ不法侵入、のぞみのレースのパンティーをクンクン、、、異様すぎる。。。

小学校でのいじめのシーン、時を隔てまたも仕事場でいじめられるシーン、赤井が引越してきて妻・のぞみ(吉村由美)と十三が出会うシーン、だいたい予想通りな感じだ。日常に潜む、しかしどこか普通じゃない狂気がある。悪くない。残酷な演出が頻出しこの映画にじっとりと低奏するドロドロしさをさらに盛り立てる。いい人・関君が衝動的に13号に殺される場面、あの場でとは驚いた。

赤井のぞみ役の吉村由美が予想以上によかった。本職じゃないので演技は上手くないが数多の修羅場を潜り抜けてきたレディースの雰囲気が出ていてなかなか面白い。ボーリング場の回想シーンでの派手な化粧に特攻服姿が印象的だ。

闇闇と場面が進んでいき、とうとう十三が赤井の息子を預かり遊園地へ連れ出してしまった。その直前の十三と13号が同時に登場する場面がミドコロ!原作以上の懊悩と狂気を醸し出していた。悩める十三と狂った13号、二人一役の映画でしか出来ない演出である。井上靖雄のアイディア勝ちだ。遊園地で十三と13号が代わる代わる登場し舞台はますます不気味な方向へ展開、ビデオカメラの中で息子が恐怖で泣き叫ぶ場面は本当にむごい。。。

そして真夜中の小学校でのクライマックスシーンへ。あの理科室で日本刀を手に意味不明な戯言を喚きまくる13号が迫力満点だ。鞄の中の秘密もお見事。もう見ていられない。絶体絶命の赤井トール、彼の心中はいかに。。。


原作にはないタイムスリップ的で不思議なエンディングもうまいなと思った。笑顔で卒業写真に写ることの出来た十三は満足できたのだろうか。失われた過去、もしも後になってから取り戻すことが可能であったのならばそれで人は素直に喜べるのだろうか。。。平川地一丁目の「はがれた夜」が心に染み入った。いい曲だな。


終演後、劇場を出て1階のゲーセンを覗いてみた。赤井夫婦のような低脳そうな親子連れがたくさん。
これって、、、映画の続きじゃないよね?
映画と現実との境目はどこなんだ!?



「もしよかったら俺がお前の子供を預かってやろうか?」と思わず話しかけたくなった。



隣人13号 1 (バーズコミックス)

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