SHINJUKU LOFT 8TH ANNIVERSARY(新宿LOFT)

出演:町田康 ( G/AxSxE、B/赤坂みちる、 Dr/恒岡章、 Key・fl・Dr/石橋英子 )
    三上寛 / THE ZOOT16 GB Version


新宿ロフトが今の位置に移転して8周年、毎年この時期に記念イベントが企画されて、私はなにかしらを観に行っている。そういえばおととしは町田とケントリのイベントを観たな。………そして最近の私は石橋英子のおっかけと化している。


アングラフォークシンガー・三上寛が独特の歌唱でフロアを暖めた後、もうお馴染みの史上最強ラインナップとなった町田康バンドが登場した。とっぱじめからブチ壊れまくっている!キレまくっている。こえーよ!何をどうやったらこんな音に辿り着いたのか、計算されたものなのかそれとも自然な成り行きなのか、とまどうほどの破壊的なサウンドだ…。ますます奇怪になっていくバンドの凄まじさが彼を触発したのか、町田康自身のブチ切れ加減が今日は特に凄まじい。なかでも‘頭のなかの青い海’、‘うどんだし’、‘淀川のX団’では狂人のような形相でノドの奥からガナリ立てまくっていた。以前はここまで多用されていなかったドスの効いた怒声はブッ壊れたバンド構成をするひとつの楽器であるかのように人間離れしていた。フロア内を濃密な音がうねるように充満していき、以前はけっこう耳にした女性ファンの黄色い声も今日はまったく出ないほどに恐ろしい雰囲気が地下室を支配していた…。そしてそんな狂気がハイレベルな知性を同時に持ち合わせているのは会場にいた者はきっと気づいていたはずである…。
やはりこの独特さは町田を取り囲む有能なバンドメンバーがあってのことである。特にAxSxE石橋英子は町田の良き右腕となり、狂人の意図をバンドサウンドへ仕上げてゆく重要な役目を任されているようだ。いままであまりこのブログで言及したことはなかったが日本のジミヘン・AxSxEのプレイはタダモノではない。若干ダラッとしたカッティングは一歩間違うとダサくなりがちだが、そうならないギリギリのところで陶酔するような独自のグルーヴを生み出していた。変則コード、拍の取りづらい奇妙なリフ、ノイズ、複雑な変態オブリガード、多くの武器を駆使する彼のプレイはこのバンドの大きな聴きどころのひとつである。
キーボード、フルート、ドラム、そして(彼女が使うのは初めて見た)テルミン!と、4つの楽器をかわるがわる用いてサウンドに華を添えていた石橋のプレイも同様にこのバンドの大きな魅力だ。カオスの奥にかすかに聞こえるエレピは(前にも書いたが)電化マイルス時代のキース・ジャレットのようにアヴァンギャルドで、混沌とした音の洪水からふうっと浮かび上がるかのように綺麗なソロを奏でる彼女の姿はまるでピアノの妖精のように可憐であった。うまく割り込んでくるフルートソロもつい聴き入ってしまうような効果を生み出していたし、右手で鍵盤、左手でテルミンを操る様子はこのバンドのハチャメチャぶりを表しているようで非常にかっこよかった。彼女と町田とがガナリ声で歌うデュエット曲‘あなたに会えてよかった’はこのメンバーになってからの代表曲と言えよう。
どんどんと壊していく方向でアレンジされた曲が(MCなどなくていいのだ)立て続けに披露されていき、後半の‘イスラエル’、‘インロウタキン’、‘フェイド・アウト’、昔からの曲も息を吹き返したかのようにまだまだ聴ける曲であることを認識させてくれた。個人的に大好きな‘うどんの中の世界’には今日もやられた。フロアは加熱してゆく一方で、ライブハウス丸ごとアツアツのだしの中に入れられてしまったかのような濃〜い時間を過ごすことができた。アンコールの‘名前の歌’はいつ聴いても町田康の「いい味」を噛みしめて心の中でずっと温めつづけていたくなるほど魅力の認識できる曲である。
伝説でもなくもちろん過去の人でもなく、今が町田康の長いキャリアの中で最高の音を出しているのだ!と自信を持って言い広めたい。

町田康
1、頭のなかの青い海 2、うどんだし 3、俺はいい人 4、頭が腐る 5、ランマン
6、淀川のX団 7、恋する君はチャーミング 8、あなたに会えてよかった 9、悪い奴 
10、イスラエル 11、うどんの中の世界 12、スガキヤ 13、インロウタキン 14、新曲
15、フェイド・アウト 

〜encore〜
16、名前の歌
(順不同)


このバンドの音を聴くとコレが聞きたくなる。良き相棒をみつけてその資質を最大限に発揮させることは、最高のフロントマンとして必要な条件のひとつかもしれない。
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