劇団、本谷有希子第11回公演『遭難、』(青山円形劇場)

作・演出:本谷有希子
出演:松永玲子ナイロン100℃)、つぐみ、佐藤真弓(猫のホテル)、吉本菜穂子反田孝幸文学座

主宰・本谷有希子本人をして今までで一番セリフ量の多い作品と言わしめた今回の『遭難、』、1回観ただけでは気づかなかった名シーンや理解できない部分も多かったかもしれない。なので楽日前夜にもう一回挑戦だ。座席はI-3、先日同様最前列ガブリつきで集中集中。


ひとりの中2男子が突然の自殺未遂を遂げた。風変わりなその母親と微妙に無責任な学校の教師たちとの、シニカルで滑稽で笑えないネタなのにどうしても笑ってしまうコメディである。


もうとにかく自分ダイスキ!な里美先生(松永)の傍若無人ぶりがすごい。自分が有利な位置に立つためには他人のことなんてお構いなしだ。責任を押し付けるのも濡れ衣を着せるのももうへっちゃら♪実はトラウマを抱えた(!?)こんな異様な役柄を松永玲子はすんなりと自然に演じていたのだからさすがである。そんな里美先生と相対する立場の石原先生(吉本)の不思議な存在感も見物で、厳しい一言を浴びせる場面では場が凍りつくような迫力があった。やはり吉本菜穂子はスゴい!文句なしで本作のMVPだ。彼女の演技を観るだけでも劇団、本谷有希子を観に行く価値があるのである。母親役の佐藤真弓、無駄に英語の発音の良い数学教師・不破先生反田孝幸)、ともに笑いを存分に取り入れた迫真の演技には感心してた。さすが飛ぶ鳥落とす勢いの劇団、本谷有希子だ。有能な俳優を役に応じて召集することに成功している。

ただ、前作ほどはのめり込めなかったのは、飽きのせいかもしれない。自意識過剰なナルシスト女を描いたら本谷有希子の右に出る者はいない。そのとおりである。だがこの突出した「得意技」が今作はかなり鼻につくように感じられ、やっぱり……、またかい……、と思う場面が何度もあった。持ち味を生かすのは良いことなので、他の部分での成長も見られる劇団になっていって欲しい。出演者が優秀だっただけにこの点が惜しい。


世紀の名作になり損ねてしまったかも。。。