上原ひろみ SPIRAL TOUR(品川プリンスホテル ステラボール)

驚異の若手ピアニスト・上原ひろみが我が国に帰ってきた。首を長くして待っていた東京公演3DAYSの初日、ステージに極めて近い良席で音の洪水を浴びまくった。考えてみれば彼女をワンマンで見るのは初めてだった。脇を固めるメンバーはアルバム『SPIRAL』と同様にトニー・グレイ(Ba)とマーティン・ヴァリホラ(Dr)だ。チケットは当然SOLD OUT、会場は超満員、歴史に残る怪演を目の当たりにできて本当に幸せだと思った。
1曲目は‘Kung-fu world champion’。シンセ音と超絶技巧な速弾きが特徴の彼女の代表曲だ。至近距離で見て・聴いてまず思ったのがタッチがかなり軽いということだ。出てくる音の数とスピードは物凄いが、手の動きは軽々と鍵盤優しく撫でるような感じである。目の前で弾いている人の手と、スピーカーから出てくる驚異的な電子音が、自分の中で連動しない。音と手の動きとのギャップが激しいのでまるでカラオケにあわせての弾きマネを見ているかのような感覚に襲われた。こりゃすげえ。上手い人ってのはこんな軽々と鍵盤を操るものなのか。
2曲目は‘Spiral’。個人的に一番聴きたかった曲なので集中した。のめり込むように曲の世界に入り込み、緩やかな音の渦に身を委ねた。大きくて幻想的な何かすごいものに包み込まれるような感覚になる…。頭の中でその何かが繰り返し渦を巻く…。そんな感覚に浸っていると突如、体が前に倒れそうになる。後ろにひっくり返りそうになる。音の渦が肥大していくにつれて、それに釣られて無意識のうちに体が反応してしまっていた。文章では上手く説明できないがそれくらいにこの渦は私を酔わせ、波の満ち干きのようにリアルであった。
その後も『SPIRAL』からの曲を中心にライブは進行していく。当然のことだが曲の特徴がライブではなおさらはっきりと表現されていた。口頭の会話レベルの小さな音から会場を破壊してしまうような大きな音まで、ダイナミクスレンジは限りなく広い。トニー・グレイはボリュームペダルを足から離さずに器用にそれを操作し、時には囁くように時には大声で叫ぶように幅広いプレイを聴かせてくれた。心が和む軽やかな名曲‘Love & Laughter’で第1部は終了。ピアノトリオの可能性の深さをまざまざと思い知らされて大満足。
第2部は組曲Music for Three-Piece-Orchestra’で幕を開けた。その名のとおりオーケストラのように幻想的でプレイの懐が広い。起承転結が果てしなく繰り返され、3者の引き出しから次々とあふれ出てくるアイディアに酔いしれた。これがないと『SPIRAL』は語れない。本編ラストを飾ったのは‘Return of kung-fu world champion’。カンフーで始まりカンフーで締める、上原個人的にも思い入れが深いのであろう。それだけ価値のある名曲だ。
鳴り止まないアンコールの拍手の後、お待ちかねの‘Green tea Farm’。緩やかな丘陵の様子と茶畑の香りがフロアを包み込む…。地味な作業を重ねる農家のイメージと丹念に楽曲を練る彼女のイメージがチョットだけダブった。
まだまだアンコールの拍手は鳴り止まない。オーラスの前に上原は観客に対して涙ぐみそうになりながら感謝の気持ちを繰り返し述べた。そして‘Dancando No Paraiso’。10本の細い指が鍵盤を叩きつける、話す時とは180度違う厳しい表情、息遣い、凄まじい音、迫真のプレイ、ここまで聴かせてもらえればなにも思い残すことはない。上原ひろみという人間を骨の髄まで堪能しきって2時間半のライブを聴き終えることができた。

次の凱旋まで、またね!

上原ひろみ

〜1部〜
1、Kung-fu world champion 2、Spiral 3、Big Chill 
4、Old Castle,by the river,in the middle of a forest 5、if...
6、Love & Laughter 


〜2部〜
<Music for Three-Piece-Orchestra>
7、Open Door-Tuning-Prologue 8、Deja vu 9、Reverse 10、Edge


11、Return of kung-fu world champion 


〜encore.1〜
12、Green tea Farm


〜encore.2〜
13、Dancando No Paraiso


復習をしよう。

スパイラル(初回限定盤)(DVD付)

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